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【ThinkingTime 】㉝電動キックだけじゃない!「特定原付」の大波が来る

*BikeJIN vol.241(2023年2月号)より抜粋

昨年末の12月23日、新区分「特定原付」の保安基準が公表された
2023年7月1日までに予定されている改正道交法と同時に施行される
原付バイクへの影響だけでは済まないこのビッグウエーブを考える

特定原付の保安基準が追加。原付は「一般」と「特定」に分離

12月23日、国土交通省自動車局が特定小型原動機付自転車(特定原付)に関する保安基準の整備を行うことを発表した。2023年7月1日までに予定される改正道交法の施行と同時に、原付一種は特定小型原動機付自転車(特定原付)と一般原動機付自転車(一般原付)に分かれる。特定原付(電動)ではキックボードのほかモーターサイクルタイプの登場も予定されている。まさにモビリティ革命の第一歩だ。

特定原付はイイとこどり?自転車と原付バイクの中間

引用:国土交通省「道路運送車両の保安基準の一部を改正する省令及び道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部を改正する告示について」より

なお、今回の定義により、原付一種は特定原付(電動車のみ)と一般原付(一般原動機付自転車)に分けられることとなった。保安基準の細かな部分は引用掲載した各表を見てほしいが、簡単に言えば、自転車と原付バイクのちょうど中間的な設定となっている。メーカーとしては特定原付区分の車両として販売するためにはこうした保安基準を満たさなければならない。これまで中国製の電動キックボードを輸入販売してきた業者も、現地の設計メーカーや工場とのやり取りに忙しくしていることだろう。もし、これらの基準を満たせなければ、今と同じように原付一種のキックボード(区分は一般原付)として販売しなければならず、そうなると免許もヘルメットも必要となって販路も拡がらず、流通・販売面で不利となるからだ。

 ユーザーとしては、16歳以上で免許不要、さらにはヘルメットも努力義務とあって、高校生や免許返納者でも気軽に乗れる自走モビリティとなるが、原付バイク同様に車両として登録してナンバープレートを取得する必要があるし、自賠責保険への加入も必須だ。なお、自賠責保険については保険証を車体に収納することが難しいことから電子化も検討されている。 特定原付にはメリットや強みが多い。車道、自転車レーン(自転車専用通行帯)、路側帯のほか、歩道モードに設定できるなら自転車歩行者道(自歩道)も走れるようになる。当然高速道路は走れないものの、現在の公道走行可能なモビリティの中では最も多くの道路(※歩道も道路)を走れる自走モビリティとなる。

 市街地や観光地でのシェアリングには期待できるほか、電車やバスへの持ち込み、自転車で言う輪行(りんこう)も可能になれば、ビジネスやレジャーといった利用でも爆発的な需要増となるだろう。公共交通との親和性が高いことからMaaS化対応をブーストする起爆剤にもなり得る。

 なお、自歩道とは道交法上は歩道で、都市部の幹線道路などで見られ、広めの歩道を白線や縁石、柵などで区画した通行帯だ。さらに、特定原付は、例外的に自転車で歩道を走れるようにしている「自転車歩道通行可」の歩道も歩道モードで走れるようになる。

 さて、そうは言っても、電動キックボードの危険性を指摘する識者は多い。ネット記事のコメント欄を見ていても、事故や違反の記事が上がるたびに「免許は必要!」「あんな危ないもの公道に出すな」といった意見が未だに根強い。それなのに、なぜ規制緩和を強行するのかといえば、移動に関する社会課題がそれだけ表面化しているからだ。今回の記事では語りつくせないが、少子高齢化、公共交通の衰退、ラストワンマイル需要、移動困難者の増加、観光地でのインバウンド対応、こういったものを改善できるツールとして期待されているのだ。

 それにしてもダイナミックな改革だ。13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者、身体の不自由な人以外の普通自転車は総じて車道に追い出すように整えられてきた近年の交通行政からは考えられないような方針転換だが、特定原付の登場こそが最も身近に実感できるモビリティ革命の始まりなのだ。

 バイクメーカーや自転車メーカーも黙ってはいないだろう。特定原付の市場は電動アシスト自転車の普及速度(2020年で国内販売110万台)を上回るという予測もある。電動アシスト市場をも凌駕するほどの大きな波がそこまで来ているのだ。若年層も乗れることはメリットだが、安全運転啓発などはこれから。施行直後は事故が相次ぎ、三ない運動の二の舞にならないよう、二輪業界も協力すべきだと考える。

バイクメーカーも参入?モーターサイクルタイプの特定原付も登場必至!

特定原付のサイズは普通自転車区分と同じで全長190㎝、全幅60㎝を超えないこと。つまり立ち乗りタイプだけでなく、モーターサイクルタイプも多数登場することが見込まれる。バイクメーカーや欧州で人気のフル電動サイクルも参入か?

ホンダ発のベンチャー企業「ストリーモ」は電動3輪キックボードを開発中。特定原付を見越した開発をしているようだ
ヤマハが開発を続けているトリタウンも特定原付として登場するのだろうか。ヤマハはグラフィットとも提携中で注目

改正道交法での特定原付の概要

⊡ 16歳以上は免許不要
⊡ 最高速度20km/h以下
⊡ ヘルメットは努力義務
⊡ 車道・自転車レーン・路側帯を走行
⊡ 歩道モード(6km/h以下)で
⊡ 自転車通行可の歩道も走行可
⊡ 車両の登録とナンバープレートは必要
⊡ 自賠責保険は必要(電子化を検討)

道路運送車両法での特定原付保安基準の概要

今回公布された道路運送車両法の保管基準改正は、新車に対しては改正道交法と同時に施行、使用過程車(登録済みで使用中の車両)には2024年12月23日に適用される。保安基準は有識者らによる「新たなモビリティ安全対策ワーキンググループ」で検討され、とりまとめられた。

表の出典:国土交通省自動車局車両基準・国際課「道路運送車両の保安基準の一部を改正する省令及び道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部を改正する告示について」(令和4年12月23日)より

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

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