バイクジンTT初代チャンピオンMoLさんが語る、ニュートラルに楽しむバイクライフ
バイクで走り続けるためにライダーたちはどんな楽しみ方をしているのかまた、モチベーションを維持するためにどんなことを心がけているのか?全国各地を走破し、年間で4万㎞もの距離を走り続けるというツーリストトロフィー2024の優勝者・MoLさんに話を聞いてみた
頑張りすぎないからバイクと向き合える
「元はほとんど外に出ないインドア人間だったんです」
バイクジン・ツーリスト・トロフィー(以下:TT)で日本中を駆け回り、初代チャンピオンに輝いたMoLさん。そんな彼から意外な事実が告げられた。
聞けば、愛知県に就職して以来、休みの日は仕事の疲れで昼まで寝る。そして動画を見るなどして1日を終える……そんな生活をしていたという。
大きな外出といえば、実家がある大分県への定期的な帰省くらい。ある日、「自分で移動して帰ってみよう」とぼんやり思い立ち、24歳で二輪免許を取得。そこまでバイクに興味はなく、荷物をたくさん積めるからという理由でバーグマン400を購入して帰省することにした。これがインドア派だったMoLさんを大きく変えるキッカケになった。
片道800㎞の愛知〜大分間を不慣れなバイクで走る。とてつもない疲労に見舞われて大分に着くころには「もうイヤだ」と思ったという。
「1週間くらい、そのキツい帰省ツーリングのことを思い返していました。でもなぜか時間が経つと、けっこう楽しかったんじゃないか?という感情が湧いて、また走りたくなったんです」
以来、ネガティブな思い出をポジティブにとらえることができるようになり、それがバイクに乗る原動力になっているとMoLさんは語る。
そんなMoLさんにツーリングの醍醐味を尋ねると「目的地に向かって走り続けるだけで楽しいんです」というストイックな回答だった。ひたすらバイクで走ることが好きで、宿泊もネットカフェがメインで時々ビジネスホテルをとる程度。ツーリングの写真や動画を残したり、SNSで発信したりもせず、複数台でマスツーリングをすることもない。多くのライダーが情報やプランにとらわれてついつい頑張りすぎて疲れてしまうようなことと無縁の楽しみ方をしている。「バイクに乗るために気合いを入れる」とか「ライダーはこうあるべき」といった固定観念をもたない。言わば、頑張っていないから頑張れる、という実にニュートラルなスタンス。
バイクは、非日常を感じるために乗るものと思っていたが、MoLさんは「当たり前の存在」としてバイクと接している。
話題をTTに戻すと、MoLさんはTTの前身である「バイクジンラリー帳」や、そのほかのスタンプラリーも参加していた。しかしポイントを重視するのではなく、あくまでスポットを周ることを楽しむニュートラルなスタンスだった。
そして2024年、第1回のTTにMoLさんはエントリーする。やはりポイント獲得は二の次というスタンスは変わらない。しかし、スポットのひとつに北海道モーターサイクルショウのバイクジンブースが指定されていたことが大きな転機となる。
「このスポットを訪れた理由は飛行機で北海道観光に行ったから、せっかくだし行ってみようかな、くらいの気持ちでした」
ただ、中部に住むMoLさんにとって最難関のひとつである北海道でポイントを獲得したことが、残りの全国スポットも行ってみたいと駆り立てるキッカケになった。
MoLさんがTTに意欲的になった理由はもうひとつある。ツーリングは好きだが、どうしても同じ場所が目的地になってマンネリ化しやすかったそうだ。その点、TTは目的地を設定してくれるのでいつも新鮮な気持ちでツーリングを楽しめるピッタリのプランだった。
以後は北海道はもちろん沖縄まで全国を駆け周った(沖縄は飛行機で行き現地でバイクをレンタル)。ポイントはどんどんたまっていったが、トップを取るぞ!という気持ちはなく「全国の楽しいスポットや知らない土地をたくさん周って楽しめたらいいな」という純粋な考えだった。その考えが指定スポットをすべて訪れる理由になり、並みいるツーリングライダーたちを抑えて初代TTチャンピオンに輝く結果になった。
それほどまでにバイクと向き合って生きているMoLさんのライフスタイルについて質問してみた。聞けばユーチューブのツーリング動画で情報収集する、カレンダーを見て先々のツーリング予定を早めに決めておくなどは当然のようにやっているとのこと。そのなかで印象的だったのが「洗車を習慣化する」というモノだった。毎週金曜日を洗車日と決めているという。つまり生活の一部にバイクを組み入れているのだ。
確かにこうして習慣化すれば、週末が近づくにつれてツーリングへのモチベーションが上がっていくことだろう。これはライダーがモチベーションアップする画期的な方法かもしれない。
バイクに乗り続けるために気負う必要はない。あくまでニュートラルなスタンスでバイクと向き合って、バイクを日常の一部として自然に取り入れればいい。そうすれば「走りたい」という感情が自然と湧いてくる。MoLさんの話を聞いていると、そんなふうに思えてくるのだった。
MoLさん
24歳で二輪免許を取得し、バイク旅の魅力に気づいた31歳。本誌が開催する第1回BikeJINツーリスト・トロフィーでトップのポイント数を獲得した初代チャンピオン。愛知県在住
編集長モリが直接お渡しさせていただきました!
12月某日、MoLさんが住む愛知県にて優勝カップを授与。なお、2025年に開催されるTTではチャンピオンがオススメするスポットも設定される予定。MoLさんがどんな場所を選ぶのか次回のTTをお楽しみに!
SUZUKI SV650
TTが開催される少し前に、走行距離約1000㎞の車両を購入。つまり買ったばかりのSV650でTTのスポットをほぼすべて走り切っている。通勤にも使っているためツーリングだけの距離ではないが、現在のオドメーターは1年間で4万㎞を超えている
TTで最も心に残ったスポットは長野県の王ヶ頭(おうがとう)。標高2034mに位置する美ヶ原高原の最高峰で、1㎞ほどの山道を上った先に広がる絶景だ。次いで北海道の利尻島。写真は通称「白い恋人」と呼ばれる沼浦展望台だ