雨の日に走りたい 田園地帯に浮かぶ島
秋田市内から国道7号を、80分ほどでにかほ市象潟に到着。象潟の岩牡蠣はブランド品であり、他にもいくつか産地があるが日本一と言っても過言ではない。冬が旬の真牡蠣は浅い海で養殖されているのに対し、岩牡蠣は海の底で育つ天然ものが主流だ。夏に旬を迎える象潟の岩牡蠣はとにかくでかい。産地で食べても一粒1000円を超えるものもある。
道の駅岩城にある岩城町活魚センターに立ち寄った。この店で10年以上働く良子さんと出会う。息子さんが就職して神奈川にいるという。なんと僕と同じ町に住んでいることが分かり、なんだか身近な人に感じてしまった。
店頭で氷の上に並んだ岩牡蠣の中から、良さそうなものを選んでもらった。使い込んだナイフを使い、慣れた手つきで大きな岩牡蠣をその場で開けてもらう。レモン汁かポン酢でいただくのだが、一口で食べられるのか不安になる大きさだ。開けたばかりの貝殻から直接、思い切ってツルリと口の中へ。
新鮮なのでもちろん臭みなどなく、牡蠣のさわやかな風味が鼻に抜けた。思わず「美味い!」と声がもれた。群馬県育ちの僕は、こうした新鮮な海の幸に疎く、苦手なものもある。しかしこれは素直に美味い。昔見た食レポで、牡蠣を「ミルキー」と表現していたが、これのことかと腑に落ちた。
象潟の牡蠣が旨いのは鳥海山の恵みでもあるという。2236mの高い山が受け止めた雨や雪が豊富なミネラルを含んだ伏流水となり、象潟沖の海中に湧き出してプランクトンを育む。湧水が冷たいため牡蠣がゆっくり育つので、大ぶりなのに身が引き締まり、旨味が凝縮するのだとか。
夏のツーリングの休憩と言えばソフトクリームやかき氷が定番だが、象潟なら冷たい岩牡蠣をレモンでいただくのがオススメだ。美味しく岩牡蠣をいただけるのは、ドライブインなどにある岩城町活魚センターのような水産会社直営店はもちろんだが、地元の居酒屋、そしてホテルなどでも旬の岩牡蠣を看板メニューにしているので、夕食にゆっくり味わいながら、お酒をいただくのもいい。僕もこの日は1日に2度も岩牡蠣を堪能することとなった。
ツブ、サザエ、ホタテの串焼きも美味い
【岩城町活魚センター(道の駅岩城内)】
道の駅岩城にある産地直送の鮮魚店だ。旬の岩牡蠣が発砲スチロールケースの氷の上に並んでいる。これを食べるだけでも秋田に行く価値がある。甘ダレの串焼きの香りもたまりません!
DATA
住所:秋田県由利本荘市岩城内道川新鶴潟192-43
TEL:0184-73-2777
さて、翌朝は小雨がぱらつく生憎の天気。鳥海山は見事に霧の中に隠れその輪郭さえも見ることができない。鳥海山からの絶景はあきらめて九十九島へ。大昔ここは海で、松島のように大小の島が浮かんでいたのだが、1804年の大地震で一帯が隆起し、かつての島々は水田の中に浮かぶ珍しい景色となった。
松尾芭蕉は雨にかすむ象潟の美しさを「象潟や 雨に西施が ねぶの花」という句に残しており、九十九島を走るなら雨の日が風流だ。ちなみに句は、雨に濡れた合歓(ねむ)の花は、西施(古代中国の美女)を思い起こさせる美しさという意味。
たしかに緑の草の海にぽつぽつと無数の島が浮かぶ姿は初めて見る不思議な光景だ。国指定天然記念物象潟・九十九島全体を見渡すなら道の駅象潟「ねむの丘」の展望台がいい。 夕日に染まる九十九島や、秋に一面が金色に光る草原に島々が浮かぶ風景にもいつか巡り合いたいと思いながら象潟を後にした。
緑の草原に島が浮かぶここにしかない風景
【九十九島】
国指定天然記念物「象潟」九十九島は、鳥海山のふもとの田園地帯に約100の島が点在する象潟独特の風景である。紀元前466年に起きた山体崩壊で湾内に無数の島が生まれた。さらに1804年、象潟大地震で隆起して湾が干潟になり現在の姿となった
左手に日本海を見ながら国道7号を走る。秋田県は北端の青森県境から南端の山形県境まで、全長約264㎞の海岸線が続いており、日本有数のシーサイドラインを誇る。県境あたりは岩場が多いが中ほどはきれいな砂浜が多く、夕日スポットとしても人気が高い。海岸線の道路は少し高台を走る区間が多いので防潮堤などに邪魔されることなく、海を見ながらの爽快な走りを楽しむことができる。「シーサイドツーリングなら秋田」と自信を持ってオススメできる。
地元の人たちも大好きなお宿
【たつみ寛洋ホテル】
海鮮にうるさい地元の人たちも、美味しいものが食べたくなると泊まりでたつみ寛洋ホテルに来る。この日の夕食は新鮮なおつくりはもちろん、旬の大きな岩牡蠣が2つ、メバルの焼き物、カニなどがテーブルを埋め尽くす。シメは目の前で炊き上げる牡蠣の釜めし
DATA
住所:秋田県にかほ市象潟町後田116-5
TEL:0184-32-5555
料金:1 泊2 食付き1 万1000円〜https://tatsumi-kanyo.jp/
さあ、いよいよ男鹿半島 ナマハゲは今も生きている
秋田市内には見覚えのある建物もあるが、首都高のような地下トンネルができていて驚いた。まあ、30年以上も経てば当然か。
市内から土崎港方面に向かう。ひときわ高く目を引くタワーが見える。ポートタワーセリオンだ。展望台からは360度のパノラマが楽しめる。目指す男鹿半島も見渡せた。
西海岸の終着点であり半島西北端の景勝地
【入道崎】
日本の灯台50選にも選ばれている美しい灯台だ。国内に3000を超える灯台があるが、登れる灯台はわずか16基のみ。その中の1つで、灯台資料室が併設されており、灯台の歴史を学ぶことができる。美しい夕日スポット。
秋田といえば竿にたくさんの提灯を並べる竿燈まつりが有名だが、土崎神明社の例祭で、18世紀から続いている祭典行事「土崎港曳山まつり」も親しまれている。地元では「カスべ祭り」と呼ばれる。カスべとはガンギエイのことで、干物を甘辛く煮て食べる。干物が大量に売られるが、おみやげには煮てあるものがいいだろう。
海沿いの秋田天王線を走る。ここは風力発電の風車が立ち並ぶ。いわゆる映えスポットの一つだ。20分ほど走ると、巨大な2体のナマハゲが現れる。ここ男鹿総合観光案内所で情報収集をしてから男鹿半島に入って行こう。
まずは秋田のウユニ塩湖こと鵜ノ崎海岸で一休み。干潮時には200m先まで歩いて行ける遠浅の海。この日の干潮は夜なので、歩くのは断念して先を急ぐ。北の端っこ入道崎は北緯40度線が通る場所だ。ここは当時と変わらぬ風景だ。灯台はこんな色だったかな……。駐車場の向こうに料理とおみやげの店が軒を連ねる。海鮮丼など、お好みの海の幸をいただこう。
美しい海を見ながら贅沢に海の幸を喰らう【入道崎なまはげ御殿(ニュー畠兼】
店先にはナマハゲ像があり、お決まりのセリフを叫んでいる。坊主頭の名物店主のお店。海鮮丼をはじめ様々な海の幸を生かしたメニューが並ぶ。貝好きならアワビが乗った「天空の神髄海鮮ナマハゲ丼」(3700円)も魅力的だ。上記写真は、時空を超えた海鮮丼(2300円)。
DATA
住所:秋田県男鹿市北浦入道崎昆布浦2-69
TEL:0185-38-2011
定休日:なし
営業時間:6:00〜18:00(11〜3月 8:00〜17:00)
https://namahagegoten.com/
さて、30年の時を経てナマハゲに会いに行く。当時も観光客がナマハゲを体験できる施設があったと記憶しているが、今はさまざまな資料が納められた「なまはげ館」、本物のナマハゲを体験できる「男鹿真山伝承館」、男鹿の文化に触れられる「里暮らし体験塾」といった施設がナマハゲゆかりの真山神社の近隣に整備されている。
まず押さえておかなければいけないのは、ナマハゲは鬼ではないということ。見かけは怖いが山の神の化身であり、里の人々の暮らしをすべてお見通しで、大晦日に各家庭を巡って人々を戒めるのだ。そもそも囲炉裏で長く暖を取ってさぼっていると手足に火斑ができる。これを方言でナモミという。怠け心を戒める「ナモミ剥ぎ」がナマハゲの語源とされている。
我々はこうした施設でナマハゲを体験するので、昔の文化を観光資源として活用しているように思いがちだがそうではない。男鹿は140ほどの集落で構成されているが、今も90を超える集落で大晦日にはナマハゲが現れるのだ。ナマハゲは独身の男性が2人1組で扮する。お酒がふるまわれるので1組が10軒程度巡るのが理想らしい。
なまはげ館には152体ものナマハゲ面が展示されているが、現役で使われているものも多数ある。木彫りの鬼風の面が、おみやげや多くの資料に登場しているので、ナマハゲといえば赤と青のあの面のイメージだが、実は本物のナマハゲ面は実に多彩だ。そもそも集落ごとに意匠は異なり、材質も木彫りだけではなくザルや紙のものもあり、ケデと呼ばれる衣装も農村ではワラ、漁村では使い古しの漁網が使われている。
なまはげ館に隣接する男鹿真山伝承館では、大晦日の家庭にナマハゲが来て家族を脅かし、家長がもてなすという様子を古民家で体験できる。理解できる範囲の秋田県男鹿地方の方言が本物感を演出。大人でも怖い!
「ウオー! 泣ぐ子はいねがー、親の言うごど聞かね子はいねがー」「怠け者はいねがー」などと大声で叫びながら家々をめぐる。ナマハゲは家族の悪いところを探り、家長は伝統の作法でお膳と酒でナマハゲをもてなし家族を守る。
神様による教育の一環でもあるようだ。人は傲慢にならないためにも怖いものがあるというのは大切なのだと思う。国指定重要無形民俗文化財となっているが、いつまでも男鹿の人々と共に生き続けてほしい。そしていつか、大晦日に現代のナマハゲに会ってみたいと強く思った。バイクでは難しいけど、冬の雪国は美しいよね。
青の癒し空間紫陽花寺
【雲昌寺】
雲昌寺の古仲副住職が15年以上の歳月をかけて育てたアジサイが、男鹿の新たな見どころとして注目を集める。見ごろは6月中旬から7月上旬。平日の昼間でも多くの観光客が訪れる人気のスポットで、本年は期間限定でライトアップしたアジサイを鑑賞できる特別観覧(1000円)が実施された
DATA
住所:秋田県男鹿市北浦57
TEL:0185-33-2537
拝観時間:9:00〜17:00https://oganavi.com/ajisai/
具材の掟は新鮮な男鹿の魚介
【豪快な石焼料理】
男鹿の料理といえば石焼料理。真っ赤になるまで焼けた石で生の魚介を急加熱することで旨味を閉じ込める。ホテルや食堂で楽しめるので、旅程に合わせて昼食か夕食のメニューに組み込みたい