2020年の冬、天草・南島原エリアをツーリングしてきた
信号が少ないシーサイドを緩やかに走ることができるという
ライダー目線の魅力はもちろん、海の恵み・自然の息吹・歴史的文化など
魅力がたっぷりのエリア、ライダー冬の新定番が見つかった!
【ツーリングガイド】冬ツーリングの新定番はここにあった! -2-
いざ、海を渡って向こう側 期待膨らむ南島原市へ
島の外周のシーサイド、国道389号を走って南端にある鬼池港を目指す。海の向こう側、長崎県・南島原市へ行くフェリーに乗るためだ。
僕のフェリーのイメージは新潟から北海道へ、とか大阪から大分へ、みたいな10時間近く海の上で過ごすイメージだ。だから「バイクと一緒に海を渡る」というイベントに少し高揚していのだが、僕以外の乗船客はいたって普通。見ると県内ナンバーばかりで、半分はトラックなどだった。
海で渡るという行為はこのあたりではポピュラーな移動手段なのだそうで、現に天草市の鬼池港と南島原市の口之津港を繋ぐ島鉄フェリーは2船で運営されており、だいたい2時間に一回(時期により異なる)、30分ほどでお互いの港を行き来している。
島鉄フェリー
料金は片道400円にバイクは850円~。今回利用したZ900RS の場合は1550円。
いったん天草に別れを告げ、南島原市に上陸した僕は、反時計周りにシーサイドを走る。天草と同様、シーサイドが幹線道路である島原半島。右手には有明海とその向こうには先日走っていた天草諸島を望み、左手には平成新山を視界にとらえながらZ900RSを走らせる。
個人的な話だが、島原半島のシンボルである雲仙岳、その中でも最高峰の平成新山には勝手に思い入れがある。最初の認識は「平成に生まれた新たな山で、日本で一番若い山」。そしてさらに調べると、噴火が始まり、平成新山が形成され始めたのが平成3年のこと。本当に個人的な話で恐縮だが、平成新山は僕と同い年なのだ。
ということで、まず訪れたのは「道の駅 みずなし本陣」。島原半島のお土産が手に入る大きなショップや、南島原の名物であるそうめんや郷土料理が食べられるレストランなどがある大きい施設。……をいったんスルーして立ち寄ったのは「土石流被災家屋保存公園」という場所。
ここは、平成新山が形成された噴火活動に伴う土石流災害によって土に埋もれた実際の家屋を保存・展示している場所で、当時の自然の威力をまざまざと感じることのできる場所だ。目に映るのは土に埋まった家屋、沈んで倒れた電信柱など。なにかの映画のセットかと思うほどの現実離れした光景が、自分が生まれた時を同じくして起こったこととは到底思えない。そんな自然の驚異を目の当たりにし、同い年なんていう半端な動機で訪れたものだから、軽くショックを受ける。
道の駅の目の前にはその平成新山がそびえたっている。少しだけ恐怖を感じた。そのあと思ったのは「自然ってすごい」という純粋な感動。少しバイクで移動して土石流が流れた、溶岩が流れ出た、などと想像しながら山を見ると、その稜線もそんな自然の跡に見えてくる。
大きく曲がった電信柱、屋根から下は土に埋まった家など、どれも現実離れしているがすべて本物。施設内には当時の映像が見られる資料館もあり、よりリアルに自然のチカラを感じることができるハズだ。売店や飲食店もあり、南島原の名物やお土産を探すのにもいい。そのあと、平成新山を下から眺めてみると、到着したときに見えた雄大でやさしい自然が、一瞬大きな生き物にも見えてドキッとした。
DATA
長崎県南島原市深江町丁6077(道の駅 みずなし本陣内)
TEL:0957-72-7222
http://mizunashi-honjin.co.jp/
道の駅を出た後は来た道を少し戻り、シーサイドをひた走る。お昼時に僕が立ち寄ったのは「鶏の白石」というお店。定食屋さんで、その名の通り鶏がメイン。お店に入る僕を横目に、テイクアウトの売店コーナーでは地元ナンバーのクルマがひっきりなしにやってきていて、お目当ては唐揚げだ。
地元の鶏を使い、変わらない味で提供を続けて50年。南島原の唐揚げといえばコレ。この辺りの人の中では唐揚げ=白石の図式が成り立っているのだとか。ほかにも「白石があるから地元の人は唐揚げを作らない」「南島原にK○Cがないのは白石があるから」などなど、正直まゆつばモンの噂も聞こえてきた。ただ、唐揚げの最高にいい匂いが店中に広がっているのと、絶えずやって来る地元ナンバーのクルマは現実だ。
今回、僕が頼んだのは通常の「唐揚もも定食」にこの辺りの名物の一つであるアラカブ(長崎県ではカサゴのことをこう呼ぶそうだ)の味噌汁を付けた「アラカブの味噌汁唐揚もも定食」だ。出てきたのはマンガに出てきそうな大きな骨付きの唐揚げ。腹ペコにコレはアガる!
一口噛むととめどなく出てくる肉汁。軽めの衣ににんにくが少し効いた唐揚げの味で、ただただ、ご飯が進む一品。やはり、地元の人が信頼する地元グルメは間違いない。唐揚げもも定食はオドロキの650円。その安さも相まって、僕も今ではすっかり南島原の唐揚げ=鶏の白石の図式になんの違和感も抱いてない。ぜひご賞味あれ。
鶏の白石南島原本店
「鶏の白石」は50年という長い間、地元に愛され続けているお店。地元島原半島で育った鶏で作る唐揚げは、素材の魅力を最大限に引き出すシンプルな味つけ。だからこそ白いご飯とみそ汁が抜群に合うのだ。
その日の夜は口之津港を通り過ぎしらはまビーチホテルという宿に泊まる。ビーチが目の前にあり、夏はもちろん、この冬の時期、真っ赤に染まる海と天草諸島を見ることができる好立地だ。
口之津温泉しらはまビーチホテル
口之津港の近くにあるホテルで、ビーチがすぐそばなので海に沈む夕日を眺めることができる隠れ癒しスポットでもある。日帰り入浴も行っていたり、レストランもあるので休憩に立ち寄ることも可能だ。
このツーリングの最終日、昨日は一瞬怖く見えた山だけど、もう少し近くで見たくて仁に田た峠を目指す。軽いアップダウンと緩やかなワインディングが楽しい広域農道「雲仙グリーンロード」を駆け抜け、いざ平成新山へ。
Z900RSも乗り続けて今日で3日目。重低音がおなかに響くいい音のマフラーと、その音通りの強くて底力のあるトルク。なのにクルマの流れに乗って低速をダラダラと流す市街地にもしっかり順応できる優等生。
そして今はワインディング。バイクの“曲がる”という基本操作が一番楽しい。自分のヤル気をバイクのヤル気が半歩先をエスコートしてくれる、そんなバイクだ。
仁田峠循環道路のゲートにある徴収箱に100円を投げ入れる。ここは一方通行の道路で道幅は比較的狭いため、景色を楽しみながらゆっくり走るのに向いている。
左の写真は、第二展望所と呼ばれる、走っていると1番最初にある展望所だ。ここからは南島原の街並みと島原半島の輪郭、そして目の前には長崎県最高峰1483mの平成新山が目の前に見える。ここにある看板に、30年以上前の写真、つまり噴火活動が始まる前の写真があったので見てみると「目の前にある山がない」のだ。前日に感じた自然の力、脅威をふまえて見ると、ここからの景色がさらに美しく感じた。この景色を目に焼き付け、山を下る。フェリーで天草へ戻り、東京へ帰る時間だ。
ちなみに仁田峠、取材当日は12月末。晴れていて走ることができたが、山の陰では残雪が見受けられた。凍結していたり、閉鎖される場合もあるので、冬の時期に行く場合は事前に調べてほしい。
今回、僕は主に天草には文化を、南島原には自然の力をとくに大きく感じた。そして冬のこのエリアは(ライダー的に)温暖で一年中走りやすいこと、グルメがさらにおいしくなるということも分かった。
取材で現地の方に「ここのいいところってなんですか」と会うたびに聞いてみた。皆ちょっと悩み、そして皆違う答えを出してくれた。鯛、海老、鶏などのグルメ。そのほか教会、山、天草四郎、イルカ、温泉……。
つまり、どれもがいいから「いいところは?」と聞いてもたくさん出てきて返答に困るのかな、と思った次第だ。
来た道を戻る。口之津港の目の前を何回か通り過ぎるたびに気になっていた、異常にデカいポルトガル人の像の前に立つ。台座にボタンがあったので押してみた。すると「ヨウコソミナミシマバラヘー……」と町中に向かって、まぁまぁの声量で喋り出したではないか! 昔ならゲラゲラと笑っている所だが、僕だって今や立派な大人だ。恥ずかしさのあまり、天草行きのフェリーの時間を理由に最後まで聞かずに背を向けて行ってしまった。……心の準備はもうできたので、今度は最後まで聞こうと思う。
ベイガ船長の像
口之津港の近くにある謎の大きな外国人の像。これは貿易をするために日本に初めて訪れたポルトガル人のベイガ船長だ。台座にはボタンを押すと大きな声で「ヨウコソ……」と歓迎してくれる。
取材協力
カワサキプラザ熊本
1月にオープンしたばかりの同店は九州道「北熊本スマートIC」からクルマで10分、国道3号沿いにありアクセス良好だ。アパレルも豊富に取り揃えているので、近隣の方はぜひ。
DATA
熊本県熊本市北区植木町鐙田1550-1
TEL:096-288-3089
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜、第2・第3 火曜
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