昭和時代の国民的バラエティ番組ドリフターズの「8時だヨ全員集合」
そのエンディングで毎週歌われていた「いい湯だな」の原曲に登場する登別温泉
昭和時代の子供なら、登別は常に気になる特別な存在だったと思う
そしてなんとも面白い響きの「おしゃまんべ」は、どこにあるのか知らないが
その名前を知らない人は一人もいなかったと思う。よ~し、行ってみよう!
少年時代に憧れた北の町を訪ねて「昭和ノスタルジー」vol.2 長万部・登別編
かにめし食べにおしゃまんべ
どこにあるのか知らないがみんな知ってたおしゃまんべ
「おしゃまんべ」という言葉はユーモラスで、どこか淫靡な響き(失礼!)もあり、一度聴いたら忘れられない地名だ。何度も名前を聞いているうちに愛着がわいたような気持ちになっていたが、かにめし弁当の存在以外、僕は何一つ長万部のことを知らなかったようだ。
何はともあれ、まずは「かにめし」だ。懐かしい折り詰めスタイルの弁当箱がひもで結わえてある。一つ1180円となかなかいい値段がついている。
店頭で購入し、店の横にある列車を模した休憩所で、かにめしをいただいた。ふたを開けると茶色いかにが一面に敷き詰めてある。味付けをして筍と一緒に炒って水分を飛ばしたかにだ。酢飯の上にふっくらした茹でたかにが敷いてあるような、寿司のようなものを想像していた僕は、かにめしさえ知らなかったことに気が付いた。
一口目は「ン? おがくずか?」などと失礼なことを思いながら、ふたくち、みくちと食べ進めると、噛むほどにかにのうまみが浸み出してくる。食べ終わるころには僕の感想は「こりゃあ美味い!」に変わっていた。
駅弁かにめし本舗 かなや本店
長万部駅から通りの向こうに見える、かなや本店は駅弁「かに飯」の老舗だ。デパートの北海道物産展では、いかめしと並ぶ2トップ
DATA
住所:北海道山越郡長万部町長万部40-2
TEL:01377-2-2007
営業時間:8:00~16:30(完売時閉店)
定休日:不定
HP:http://www.e-kanaya.com/
日もとっぷりと暮れて、温泉宿の外に出てみると、昼間は到底営業していると思えないようなスナック(?)の看板に灯がともり、まさに昭和ノスタルジーといった趣きに通りが一変していた。
そこで聞いたかにめしにまつわる話。「子供時代はね、函館からかにめしを食べるためにドライブに連れて行ってもらうのが、何より楽しみだったのよ。高速道路が開通する前だったから何時間もかかったけど、ウキウキしてたから全然苦にならなかったわね」
大人になってからはこんなことがあったという。「函館の百貨店でたまに、長万部のかにめしが限定で売られていたの。新聞の折り込み広告が入るほどの人気だったのよ。ある日ね、お母さんに頼まれて百貨店に出かけたの。自分の3人前で完売しちゃって。漫画みたいでしょ。悔しくて、そのままクルマを飛ばして長万部までかにめしを買いに来ちゃったのよ。そのくらい食べたくなるの……」
長万部はカニ漁が盛んな町であるとともに、良質な温泉が湧き出る温泉地でもある。街中に20部屋ほどの旅館がひしめき合う。中でも丸金旅館は唯一露天風呂を構えた宿だ
DATA
住所:北海道山越郡長万部町長万部403
TEL:01377-2-2617
宿泊料:9330円~(1泊2食付き)
HP:http://www.marukinryokan.jp/
牧場直営のチーズ工房は、全国規模の品評会でも、金賞を受賞する実力と人気を誇る。そしてオリジナルのアイスクリームが絶品だ!
DATA
住所:北海道山越郡長万部町長万部431-14
TEL:01377-6-7280
営業時間:11:00~17:00
定休日:火曜(※冬季は火曜、日曜)
HP:https://www.facebook.com/kawasecheese/
イカが丸ごと入った浜ちゃんぽんと、海鮮あんかけ焼きそばが看板メニュー。地元の人にも愛されている通り、何度でも食べたい味だ
DATA
住所:北海道山越郡長万部町中ノ沢56-1
TEL:01377-2-5180
営業時間:10:30~20:00
定休日:月曜
ババンバ・バン・バン・バン♪ここは北国のぼりべつの湯
登別の温泉街を登っていくと突如現れる地獄谷。荒涼とした大地から幾筋もの煙が立ち上る様はド迫力
地獄谷、鬼、閻魔様 新たな伝説が始まる
登別温泉は言わずと知れた日本でも指折りの名湯である。昭和時代、日本各地の有名温泉地には巨大な温泉ホテルがひしめき合い隆盛を極めた。高度成長時代にオリンピックや万国博覧会などが開催されるたびに、開催地周辺の観光は一気に盛り上がった。温泉は家族旅行や新婚旅行先として「憧れの場所」として筆頭候補。しかし、日本が豊かになるにつれ、小さな贅沢旅は海外旅行に移行。「憧れのハワイ航路」というやつだ。
時は流れて日本経済は停滞し、巨大な温泉ホテルが役割を終えてしまったような場所もある。果たして僕の憧れの温泉地、登別はどうなっているのだろう。そこで登別温泉開湯と共に歴史が始まったという老舗旅館、第一滝本館に宿を取った。
第一滝本館
昭和時代に大人気だった大型温泉ホテルスタイル。行き届いたサービスとゴージャスな雰囲気、豪勢な食事、そして天然温泉で露天風呂も完備した広大な浴場。これも旅の醍醐味
DATA
住所:北海道登別市登別温泉町55
TEL:0120-940-489
日帰り入浴料:2000円~
https://takimotokan.co.jp/ja/
気付けばエントランスの改装中で大規模な工事が行われている。臨時のフロントは6カ所も設けられているにもかかわらず、チェックインのための行列ができていた。巨大な温泉ホテルは1泊では見て回れないほどいろんな施設がある。大浴場には温泉プールがありホテルの枠を超えている。「昔のビッグネームはさびれてしまっているのでは……」などという心配は杞憂に終わった。ここには昭和時代さながらに、きらびやかでゴージャスだった温泉ホテルがある。
ツーリングの疲れを癒すにはひなびた温泉や小さな旅館が好みだったが、価格を抑えたプランもあるので、これはありだと思う。元気になれる気がする。
夜は温泉街挙げての人気イベント鬼花火がある。地獄谷を見渡せる展望スペースが会場になる。19時半くらいから観客が集まりだし、開演10分前の20時20分にはスペースに入りきらないほどの人でごった返す。観光パンフレットなどでは目にしていたが、ライブの迫力は凄い。人気になるはずだ!
新たなる鬼伝説を生み出す鬼花火は毎週木曜、金曜の夜に開かれる。その人気は高く、明らかにこれを目当てに来ている観光客も目立つ
登別最大の観光資源が温泉であることに間違いないが、もう一つの登別の顔といえば何といっても、「のぼりべつクマ牧場」だ。野生のクマと遭遇することもある北海道とはいえ、凶暴なエゾヒグマを間近に見られるのは貴重な体験だ。この日は幼い子熊たちが木の上で迎えてくれた。動くテディベアのようで、その愛くるしさは格別だ。
のぼりべつクマ牧場
80頭余のエゾヒグマが暮らすクマ牧場。メスは非常に愛想が良く、おやつをねだる姿がユーモラス。アイヌ文化を体感できるアイヌコタンもリアルで興味深いものばかり。生の声に耳を傾けよう
しかし、それよりも心惹かれたのは、併設されているアイヌ文化を伝えるユーカラの里(アイヌコタン)。アイヌの家「チセ」が立ち並び、なかには明治時代の生活が再現され、知恵を生かした様々な道具が展示されている。
一つのチセの中で木彫りをしている男性がいた。コロボックルを題材にした作品だ。古くからクマや夫婦の木彫りは誰の家にも必ずあるアイヌのお土産だった。しかし、こうして手で丹念に掘っている姿を見ると、これは単なる観光土産という表現では済まない文化的なものを感じた。本物の凄味だろうか。昔話をいくつか伺ったのだが、「アイヌの知恵は凄いよ。アイヌの考え方で暮らせば環境破壊なんてありえないんだ」という言葉がずっと僕の心に残っている。
アイヌはクマを狩るが、殺生した以上何一つ無駄にしないで使い切る。そして神の恵みへの感謝の気持ちを忘れない。魚だって必要以上に取ることはしないという。
アイヌというと虐げられた歴史を真っ先に連想してしまうが、知るべきはアイヌの知恵。後世に伝える価値のある知恵といえるだろう。
こうして昭和を感じたくて道南に出かけてきたが、変わらないでほしいものをたくさん見つけた。一方で多くの令和の新しい息吹を感じることもできた。
今回の相棒はスズキワークスカラーのGSX250R。昭和のバイクブーム時は、レーサーレプリカでツーリングが当たり前。この選択は正しかったと思う。前傾姿勢で駆け抜けるワインディングこそ昭和ノスタルジーなのだから。
地元の人たちに愛されるレストラン。ピザとステーキが人気。会社帰りに一人で立ち寄る馴染み客も多い。楽しい出会いがあるかも
DATA
住所:北海道登別温泉町60
TEL:070-5605-7702
営業時間:11:30~16:00、20:00~25:00
定休日:月曜
新鮮な海鮮料理がメインでメニューが豊富。初夏はウニの季節だ。ご当地グルメ「登別閻魔焼きそば」も人気急上昇中。要チェック!
DATA
住所:北海道登別市登別温泉町50
TEL:0143-84-2560
定休日:なし
HP:http://www.onsenichiba.com/
おなか一杯食べたい地元の人々に大人気。焼き肉がドン! と乗っかった肉めしが看板メニュー。場所は温泉街ではなく登別駅近く
DATA
住所:北海道登別市登別東町2-25-1
TEL:090-3394-8485
営業時間:11:00~19:00
定休日:不定