【深堀りバイク日誌】TRIUMPH DAYTONA660
トライアンフを感じる直列3気筒エンジン
このデイトナ660、ツーリング向きのしなやかな足周りに、〝デイトナ〞らしいスポーティなスタイリング、いろいろオススメできる要素はあるものの、やはり最大の特徴はトライアンフのお家芸である直列3気筒エンジンだ。
ここ最近、10年前くらいからヤマハもMT‐09シリーズで直列3気筒エンジンを投入しているため、〝唯一〞なんて言葉は使えなくなってしまったものの、やっぱり直列3気筒エンジンといえばトライアンフである。メーカー名に〝トライ(3)〞が入り、特徴的な三角形のロゴも〝トライアングルマーク〞なんてレベルのアイデンティティだから、直近10年くらいで3気筒エンジンのモデルを作ったところで敵うわけがない。そんなトライアンフの直列3気筒エンジンの魅力は、冒頭にも書いたが〝ダイレクト感が強く歯切れのいいパワーフィール〞だ。
この辺りをもうちょっとだけ深掘りさせてもらおう。まず前提として、クランクシャフトのオフセット間隔が120度、つまりピストンが押し下げる〝コンロッドが均等にクランクシャフトにつながっている〞。……これが、直列3気筒エンジンのキャラクターを決定づけている構造的な要因だ。
エンジンではピストンが往復運動する際に大きな揺れ(振動)を発生させるわけだが、〝コンロッドが120度間隔で均等にクランクシャフトに接続〞されている直列3気筒エンジンなら、お互いの動きでこの揺れを相殺することが可能。なので振動を打ち消すためのオモリであるバランサーがまったくいらない……とまでは言わないが、一番大きく重いバランサーが必要ない。おかげで直列3気筒エンジンは物理的に軽くてコンパクトというわけだ。
またエンジンの吹け上がりのフィーリングも特徴的。3気筒の燃焼タイミングが等間隔なのに加え、重いバランサーがないことで過渡特性がフラットで、スロットルオフにした時のトルク離れというか、駆動力の切れもいい。これを短くまとめると、〝ダイレクト感が強く歯切れのいいパワーフィール〞となるわけだ。蛇足だが、ヤマハのY ZF‐R1のクロスプレーン構想は、直列3気筒エンジンが本来持っているこの特性を4気筒エンジンへの応用したものだ。
さてちょっと前置きが長くなったが、デイトナ660もこの直列3気筒エンジンの特性がしっかり感じられるマシンになっている。
第一に車体がコンパクトで軽いのだ。単気筒や2気筒のバイクよりもパワフルで吹け上がりがよく、しかも直列4気筒に比べると、気筒数やバランサーの関係で圧倒的に軽い。
車格は400㏄並みにコンパクトでヒラヒラとした軽やかなハンドリングが楽しめながら、エンジンはパワフルで高回転までしっかり回る。直列3気筒エンジンの美味しいところをしっかり使ってまとめ上げられている。しかもそれが変にスポーティになりすぎてないところがまた絶妙。
トライアンフのミドルクラスには、660㏄シリーズの他に、765㏄直列3気筒エンジンを積んだストリートトリプル765もある。このエンジンはMoto2に供給しているくらいで恐ろしくスポーティで、特に上級仕様のRSは〝ストリート〞とは名ばかり。走らせているとエンジンが〝俺はまだイケる、もっと回せ! 速く走れ!!〞と急かされるようなところがあるのだが、デイトナ660はそれがない。ワインディングに入っても目が吊りあがらず、心に余裕を持った心地いいペースで走って楽しくなるようにできている。
同系エンジンを積む、兄弟モデルのトライデント660やタイガースポーツ660よりも14馬力もアップしているのだが、変にアドレナリンの分泌を促さないようにエンジン特性がデザインされているのが素晴らしい。どうりでツーリングが楽しいわけである。決して遅いのではなく、〝速く走らなくても楽しい〞というところにデイトナ660の存在意義がある。