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【Thinking Time】㉓受講生徒の7割以上が好印象!3年目の高校生講習は大成功

*BikeJIN vol.231(2022年5月号)より抜粋

埼玉県は19年に三ない運動をやめ「乗せて教える」交通安全教育に転換した
「免許が取れる」「買える」「乗れる」のなか、子供たちの安全にどう取り組むべきかを模索した
3年間が過ぎたが、受講生徒へのアンケート結果を見るとかなり好評のようだ

交通安全教育への転換から3年目の講習を終えた埼玉県

検討委員会での議論を経て、2019年に指導要項を改訂し、三ない運動から「乗せて教える」交通安全教育に転換した埼玉県。県内6地域で開催されてきた安全運転講習会も昨年の12月で3年目を終えた。新型コロナ禍だったが感染対策をした上で「講習を止めてはならない」という強い信念のもと予定通り開催された。

 昨年、埼玉県により開催された「令和3年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習」に参加した生徒のアンケート結果について紹介する。2019年に三ない運動をやめて〝乗せて教える〞交通安全教育に転換してから3年目の講習会が終わった。取材をしていていつも気になるのは「なぜ、この子らはバイクに乗っているのか?バイクをなにに使っているのか?」ということだが、そうした疑問も含め、有意義な回答結果となっている。

岐路に立つ三ない運動モビリティ革命も迫る

 その前に、三ない運動は岐路に立っている。民法改正により、この4月1日から成年年齢が引き下げられ、18歳から成人となった。また、電動キックボードの規制緩和が3月4日に閣議決定された。16歳以上なら免許不要で、ヘルメットもかぶらずに走れるようになる。2024年の夏までに施行予定と報道されているが、シェアリングサービスの現場では特例措置も含め、もっと早く規制緩和が進む可能性も高い。CASE、MaaSのモビリティ革命はもうそこまで迫っているのだ。 

そうした新たなモビリティへの対応も含め、今後の教育現場も大きな決断を迫られるのは必至だが、どのようなモビリティが対象であっても、忘れてはならないのはユーザーの生活・利用実態だ。自走モビリティに乗るという点では、日本の高校生は長らく不便な思いをしてきた。気が付けば、少子高齢化の中で、学校の統廃合、公共交通の衰退という社会環境変化のもと、免許返納を課題とする高齢者と同じく免許を取れない若年層も移動困難者として取り残されそうになっている。

高校生はなぜバイクに乗るのか?

どんな用途で運転してるのか?
・移動(買い物、外出、遊び)、ツーリング ※全地域で回答あり
・アルバイトの通勤  ※「仕事」を含めると全地域で回答あり
・通学  ※秩父地域ではほぼ全員が回答
数十年前から特例としてバイク通学が許可されてきた秩父の2地域ではほぼ全員から「通学」という回答があった

 

受講生徒の回答結果を見れば、彼らがバイク移動に対してどのようなマインドで、どんなニーズを持っているかが一目瞭然だ。買い物、アルバイト、友人とのお出かけや遊び、そして週末のツーリング。バイク通学が許されてきた秩父地域ならば通学にとって欠かせない移動手段でもある。公共交通の衰退した中山間地では、自転車で通うのが大変な距離どころか、峠をいくつも越えなければいけないような通学環境も
ある。ちょっと天気が悪ければ親御さんが学校まで送迎し、部活や塾で帰りが遅くなれば電灯もない真っ暗な山道を帰らなければならない。こうした実態をしっかり把握したうえで、最適なモビリティが選択されるべきであり、その乗り物に対応した交通安全教育が提供されるべきなのだ。モビリティを製造することは得意でも、活用することにおいてはまるで後進国だった我が国は、今後こうした課題について、もっと広範に、そして真剣に取り組む必要がある。

 埼玉県の高校生たちは、傍から見ていてもとても素直だ。今どきの高校生と言ったらそれまでだが、ちょっとやんちゃな見た目の子でも指導員と目を合わせ、ちゃんと上達しようと取り組んでいる。バイクが好きなわけではないけど、移動手段としてバイクを選ばざるを得ない女子生徒も、「毎日乗るものだから」と自分の運転技術を見つめ直し、指導員のバイクメンテナンスにもしっかり耳を傾けている。

 そして、なにより嬉しいのは、県の教育委員会や埼玉県警察、交通安全協会の指導員といった大人たちが、目線を高校生に合わせながらしっかりていねいに教えてあげる、導いてあげることができている、そうした場づくりがなされているということだ。そうした大人たちの気づかいが受講生徒の心に届き、実技や座学の理解、吸収を高めていることがアンケート結果からも伝わってくる。講習の印象を聞いた質問では7割以上の生徒に好評だったことからも、この講習は大成功だったと言えるはずだ。

 まだ、たった3年が終わったばかりなのは間違いないが、生徒にこれだけ受け入れられているのならば、すでにベースはしっかりできていると言える。今後、仮に電動キックボードのような新たなモビリティが講習対象に追加されたとしても、高校生に安全運転を教える素地があるのは心強い。埼玉県の取り組みが新たなステージに進むことを期待しよう。

「講習を受けた感想」を聞いたら?

「受講した講習の印象について」という質問で、実技講習、講義(座学)、救急救命法のそれぞれについて聞いた結果が右表となる。「大変良かった」「良かった」で7割を超えている。1割ほどの無回答を考慮すれば、ほとんどの生徒がそれぞれの講習内容に好印象を抱いていたことになる。アンケートの1番目の質問であり、細かなことを聞く前なので、受講生徒の率直な印象が現れていると言えるだろう。

さらに、受講生徒への質問「講習を受けた感想を記入してください」についてフリーアンサー(自由記述回答)の結果をAIテキストマイニングした。日常用語を省いた中でスコア(重要度の高いワード)別と、単純な出現頻度別で解析。ワードの修飾・被修飾関係などを見ると「走行・講習・指導員~楽しい」「千鳥・走行・運転・低速~難しい」といった意見が見えており、講習の楽しさと運転の難しさを再認識したようだ

スコア別結果
スコア別では日常的なワードほど点数は低く、特別なワードほどスコアが高くなる。「救急救命」「AED」に続いて「運転「大切さ」「講習」「危険」といったワードが目立った
出現頻度別結果
スコア別ワードと出現頻度別ワードの共起関係、修飾・被修飾関係を見ると、救急救命法や安全運転、危険について「大切なこと」として受け止められたことが見えてくる

※回答文の解析には株式会社ユーザーローカル社のAIテキストマイニングを使用

ポジティブワードの関係として「指導員~楽しい」「丁寧~教えてもらう」も目立った。これは嬉しい結果だ
シミュレーター教習や講義など座学についても「大切さ~わかる」「知識~付ける」「危険~知る」と良い結果だった
救急救命法は会場となる自動車教習所のインストラクターが担当した。コロナ禍ということで患者からの感染も考慮しながらの手法を学んだ

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む

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