【Thinking Time】㉑免許不要でノーヘルOK!?電動キック法改正案の衝撃
*BikeJIN vol.229(2022年3月号)より抜粋
昨年12月、警察庁が示した電動キックボードの法改正案が衝撃的だ
20㎞/h以下であれば16歳以上なら免許不要で公道走行が可能
しかもヘルメットは努力義務。日本の混合交通は新たなステージへと向かいそうだ
2つの団体が環境構築に動く「新たなモビリティ」業界
昨年の12月23日、警察庁から電動キックボード運用に関して道路交通法の改正案が示された。いま現在は、電動キックボードを購入して公道を走行するなら原付一種バイクに乗るのと同じルールで運用されることになるが、この法改正案が国会審議を経て、そのまま承認されれば、次のようにルールが変わるとされる。
●車両区分は新設され、小型低速車(仮称)に(道路運送車両法)
●最高速度は20㎞/h※リミッター装着
●自転車レーン、自転車道は走行可能
●歩道走行も視野※速度を6㎞/hに制限
●運転免許は不要(道路交通法)
●年齢は16歳以上
●ヘルメット着用は任意
●保安部品の規制緩和
●車体登録や税金などは未定
なかなか衝撃的な内容だが、こうした改正案に至るまでには、数年の歳月をかけて各所で議論し、実証実験も重ねてきている。実証実験では、大学の敷地内といったクローズドなフィールドから現在の都市部繁華街における特例措置の下での社会実装まで段階を踏んで実施され、都度、検証内容に関するデータ収集を行ない分析されている。利用の実態など様々なデータを集めやすいのも電動モビリティの優位性のひとつだ。
法改正案のベースとなっているのは「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」が出した報告書21年12月)だ。この検討会では、今後の普及が予測される電動モビリティを3類型に分けて、運用するにあたっての交通ルールや、そのために検討すべき課題がまとめられている。
また、他国での運用状況も参考にされている。電動キックボードは数年前から欧米やアジアの一部で普及が進んでいたが、シェアリングサービス等も含め、運用上の問題や事故が頻発したため、現在は各国が制度を整えつつ引き締めにかかっている状況だ(表1)。
電動モビリティは速度の制御や走行・利用データの収集のほか、GPS等を用いた使用範囲の制限もできるので、利用の制限がしやすく、各国の法制度にも個々に対応させやすいメリットがある。今後も電動パーソナルモビリティに関するルール改定は、各国はもとより、各地域(市町村など)ごとに行なわれていくだろう。
さて、混合交通下におけるモビリティ運用の姿が大きく変わろうとしている今、二輪業界はどのように対応するだろうか。現在のところ声明や意向を明らかにした団体・企業はない。バイクラブフォーラムで示された「二輪車産業政策ロードマップ2030」には、新たなモビリティとの共存を前提に「混合交通での役割と優位性を整理し地域と連携して進める」とあるが、具体的な動きは示されておらずこれからだ。
他国の前例を見れば、電動キックボードの普及は、同じく免許のいらない自転車以上に加速度的に進むだろうし、それにより原付一種・二種のスクーターは販売減となるだろう。欧米では、既存のスクータータイプ(電動)を利用したシェアリングサービスも行なわれているが、結局は車両の区分がどうかよりも、法律や条例の中で、どう細かく電動モビリティを制御し、利用者の利用実態を管理できるのかがポイントになりそうだ。 シェアリングサービスを利用して乗るのであれば、事業者は利用者をかなり細かく管理できる。日本でも、正しく運用していない個人所有の〝野良〞キックボードによるひき逃げ事件があったが、今後、利用者の管理は安全の担保として一層求められそうだ。問題は、個人所有となるキックボードをメーカーと地域行政がどう監理できるのかだろう。道路行政の対応には時間がかかるが、IoTや、GPS、5Gを利用して車両設定等の管理は容易に実現できるだろう。「悪(人)ははびこらせない」というシステムが運用の肝となりそうだ。
都市部で急速な拡大を続けるシェアリングサービスの現状
電動キックボードは原付一種に区分されるため、ウインカーなどの保安部品、ナンバープレート、さらには自賠責保険への加入も義務付けられている。これでは、欧米のように普及しないし、シェアリングサービスへの導入やMaaSにおけるラストワンマイル(自宅⇔駅など)への活用も進まない。よって、規制緩和を見越した実証実験(小型特殊自動車とし、ヘルメット着用は任意)の最中だ。
Writer 田中淳磨(輪)さん
二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む
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