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【Thinking Time】⑨コロナ禍で増える、バイク需要と死亡事故

*BikeJIN vol.219(2021年5月号)より抜粋

2月中旬、警察庁から20年の交通事故統計が公開された
統計開始以来、初めて交通事故死者数が3000人を下回るなか
バイク乗車中の死亡事故は増えていた。
この状況にどう取り組むのか、考察する。

バイク事故をなくすために 二輪業界は何ができるのか?

外出自粛、緊急事態宣言等により、人々の移動が抑えられたこともあるだろう。20年の交通事故死者数は統計開始以降、最も少ない2839人となった。自動ブレーキなど先進安全運転支援システムなどの恩恵も考えられる。

そんな中、ひときわ目立ったのがバイク乗車中の死者数だ。原付一種では減ったが、51㏄以上の自動二輪車で24人も増えた。バイク事故による医療機関への圧迫は十分懸念されていたし、二輪業界やメディアも自粛を呼びかけていたが、残念な結果になってしまった。
 

2020 年交通事故統計が公表された。交通事故発生件数は30 万9178 件と前年から約7.2 万件も減少、死者数に至っては統計開始以来初めて3000 人を下回り2839 人となった。コロナ禍での緊急事態宣言、外出自粛が大きく影響したと思われるが、二輪車全体での死者数は増えてしまった→参考はこちら

要因は様々にあるだろうが、給付金によりバイク免許の取得者が増えたこと、ニューノーマル時代ということでバイクによる移動が増えたことも影響しているようだ。全国では、自動二輪車が20〜30代で、原付一種は40〜50代で死者数が多かった。また、20代では2 50㏄クラスの事故発生件数が増えていた。 一方、バイクの保有台数が最も多い東京都(警視庁)の統計を見ると、死亡事故が多い時間帯は出勤・退勤のラッシュ時となっており、50代(12人)の死者が多く、次いで20代(8人)だった。都内交通事故死者155人のうち40人(25・8%)がバイク事故で亡くなっており、全国の構成率(18・5%)と比べても突出している。
 

「令和2 年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」 (警察庁/ 2021 年2月18日)掲載データを基に死者増加年代のみ作成

自動二輪では20〜30 代で万遍なく、また50 代前半でも死者数が増えていた。原付は自動二輪車に比べると少ないが40 〜50代での増加が目立った。コロナ禍ではなかった一昨年の数字と比べても自動二輪・20〜30 代の事故は増加傾向にあるようだ

さて、コロナ禍では新車、中古車に関わらず、バイクがよく売れている。販売店は在庫の確保に、販売・メンテナンスにと忙しい日々を送っているが、死亡事故がこんなに増えてしまっては手放しで喜んでいる場合ではない。自工会を始めとした業界関係者は対策に動き出しているが、課題は多いようだ。

①正確な分析に必要な情報入手
②団体、個社、個店での役割
③プロテクター等安全装備の普及
④若年層への学びの機会提供
⑤ライト層への周知・啓発

 関係者にヒアリングをすると、5つの課題が浮かび上がった。正確な事故分析のための詳細情報は各県警が握っている。しかし個人情報保護という観点もあり、どこまで連携できるのかは未知数だ。また、対策を打つ手として、メーカーの団体である自工会、安全運転講習等を実践する日本二普協、販売会社およびその団体、販売店と、それぞれに役割は変わってくる。どう分担するべきなのか。
 

データをどこまで細かく拾えるか 事故分析には都道府県警の協力が必要
警察庁の統計では事故の詳しい状況には触れられていない。都道府県警が公表している統計には、 道路・交差点名など事故発生箇所の情報や類型別の発生状況などが細かく記載されているものもある。事故の詳細を知り、しっかりとした対策をするためには都道府県警の協力が必要となる。
「二輪車の交通人身事故発生状況(令和2 年中)」(警視庁/ 2021 年2月9日)掲載データを基に作成

高校年代からの対策はどうか? マイノリティへの教育課題

さらに、中々増えない胸部プロテクターの装着率やヘルメットのあご紐の確実な固定、高校年代を含めた10〜20代の若年層にそうした情報をどう届けるのかも課題となる。スポーツバイクユーザーには、ショップ等が開催するツーリングの中でスタッフが実践的な知識や技術を教えていくことも有効だろう。高校生に対しては、各校のみならず、教育委員会やPTAなど関連団体との連携も求められるだろう。
 大変なことばかりだが、とくに難しいのが、原付一種・二種スクーターを通勤や通学に使っているようなライト層への対策だ。趣味として乗っているわけではないので、業界がPRを届けづらいし、警察や交通安全協会が主催するような安全運転講習会への参加も期待しにくい。唯一のタッチポイントとなり得る販売店では、地域の交通事情に沿ったワンポイントアドバイス、SNSやアプリ等を活用した来店促進、地域講習会への案内といった声掛けが重要になるだろう。
 
業界の川上から川下までが、どう役割を分担し、警察や交通安全協会、教育委員会といった組織とどう横につながっていけるか。これまで以上に柔軟な水平垂直の視点・思考が求められている。

都内高校生の交通人身事故状態別発生状況
都立高校に三ない運動はない。二輪に乗る生徒は少ないが、自転車552 件(死者0名)、自動二輪77 件(死者3名)、原付37件(死者0名)と割合は少なくない。
※「高校生の交通人身事故発生状況(令和2年中)」(警視庁/ 2021 年2月9日)掲載データを基に作成→最新データはこちら

都立高校に見る“高校生ライダー”への安全運転の現状

なぜ、20代の事故が増えたのか? 詳細な分析は簡単ではないが、その一つ下の世代である高校生の状況も決して良くはない(上記・円グラフ参照)。三ない運動がない東京都では、都立高校生ならバイクに乗れる環境だが、安全運転講習は各校に委ねられている。 都の教育庁では、各校からの事故報告を事例集にまとめているが、それを基に対策するのは各校の役割だ。自転車に比べればマイノリティであるバイク乗車生徒に対して学校がどこまでできるのか、地域の警察や交通安全協会等がどこまで協力できるのか。旗振りがいないような状態で高校生の事故を減らすことはできるのだろうか。


東京都教育庁では、各校から交通事故の各種データを集めて定期的に公表。無謀運転のうち1人は「山間部の曲線道路で転倒」などある程度の詳細を把握しているようだ
※「東京都高等学校交通安全教育指導事例集〈 第36集〉」(東京都/2020年4月20日時点)掲載データを基に作成

Writer 田中淳磨(輪)さん

二輪専門誌編集長を務めた後、二輪大手販売店、官庁系コンサル事務所への勤務を経て独立。三ない運動、駐車問題など二輪車利用環境問題のほか若年層施策、EV利活用、地域活性化にも取り組む
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