【第12回 】アウトドアMONOローグ「ナイフ」(最終回)
BikeJIN2023年7月号(Vol.245)掲載
使わないから正しい使い方を覚えない
その最たるものがナイフではないか
野外こそナイフの使い方を知る最適の場だ
野外生活の道具としてナイフは調理、焚きつけ作りなど、さまざまな場面で重宝する道具のひとつだ。 僕の青年期は「ランボー」や「クロコダイル・ダンディー」など大型ナイフを使う主人公の映画が目白押しで、当然のように憧れてコピーモデルを買い求めた人もいるハズだ。
しかし、実際に使ってみると分かるのだが、これらのサイズのナイフは本来「敵」や「ワニ」と戦うためのものであって、キャンプレベルでは完全に大き過ぎるし、薪を割るには斧やナタの方がはるかに使いやすい。
まず、調理には刃の厚いナイフは使いづらい。調理用に薄く研がれた刃で薪を割ると簡単に刃こぼれしてしまうし、逆にナタのような刃の厚いナイフでニンジンやジャガイモを切ると、切れずに割れてしまう。調理用には刃の薄いもの、力を必要とする作業には刃の厚いものと刃物は用途によって使い分けるのが最適なのだ。
映画「クロコダイル・ダンディー」では、ニューヨークから来た女性の前では腰に下げた大型ナイフでヒゲを剃って見せるけれど、彼女が離れたスキにバッグから取り出したT型カミソリを使っていて「刃物は用途に合わせて数種用意しておくべき」というのを非常に分かりやすく見せてくれていた。
そしてナイフやナタ、斧など刃物の携行について注意しなければいけないのは「銃刀法」と「軽犯罪法」だ。キャンプ場内では構わなくても、ナイフやナタを腰につけたままの姿でコンビニに行けば、日本では通報される可能性もある。僕は街中でもよほど「犯罪を犯すに足るほど疑わしく」見えるのか、これまで何度も警官による職務質問にあっている。一度は新宿西交番派出所まで連れていかれ、撮影のために持っていたナイフを見とがめられ、運悪く編集部との連絡もつかずに「撮影のため」というのが証明できずに、延々取り調べを受けたこともある。後日、新宿本署で説明をして疑いも晴れ当該のナイフも返却されたのだが、取り調べの際の「犯罪者」と決めつけた警官の態度は今思い出しても腹が立つ。その後、警視庁に取材を申し込み「刃物」に対する国や警察の見解を聞いたのだが、国としては「持たせたくない」というのが大前提になっているようだ。
しかしながら当然のように、モノはすべて使いながらでしか使い方を覚えることはできない。ナイフも調理や軽作業で手を切りながら使い方を学んでいくからこそ、その道具の持つ危険性も理解する。しかし、それがないと自分の手を切る痛みも知らず正しい使い方を覚えないまま、時に感情に任せて人に向けてしまうことにもつながっていく。それ以前に、子供に正しい使い方を教えようにも、大人がまず正しい使い方を知ないと教えようがない。それには、まず僕ら大人が野外で積極的にナイフを使って、正しい使い方を知ることこそが大切なのではないかと強く思う次第だ。