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【正直ディーラー】バイク買い替えの嫁承認が下りるマジックワードってないですか?

とある街に、主要な国内外バイクブランドの現行車をすべて正規販売可能なディーラー契約規定が厳しい現代の日本では実現不可能と思われた二輪販売店がある。「正直ディーラー」と呼ばれるこの店を支えるのは本音語男。長所だけでなく短所も隠さずユーザーに伝える、凄腕のセールス担当者である。今日もまた、愛車選びに悩むバイク乗りがショールームを訪れ、語男に助言を……

包み隠さず本音のの営業トーク!?

正直ディーラー・セールス担当

正直ディーラー・セールス担当
本音語男(ほんね・かたろお)

国内と海外の二輪メーカーが販売する現行車に精通する凄腕の二輪ディーラー営業マン。自身もツーリングやサーキット走行やモトクロス遊びで多彩なバイクに乗りまくり、その経験もセールストークに活かす。好きな言葉は「誠実」、嫌いな言葉は「忖度」

今回のお客様

田中さん(40代・バイク歴20年)
結婚直後にしばらくトーンダウンしていた期間はあるものの、学生時代からバイクを所有し続けてきた。現在の愛車はデビュー直後に正直ディーラーで購入したZ900RSで、そろそろ乗り替えを検討中なのだが……

旧車のプレミア化にはコストがかかっている!?

本音:いらっしゃいませ。あ、えっと……。田中さん、で間違っていないですよね? 他のお客様と混同していたらごめんなさい。

田中:あ、はい! そうです、田中です。ってゆーか、こんな大型店舗で、年に一度くらいしか来店しないどうでもいいような客の名前、よく覚えていらっしゃいますね……。

本音:いや、お客様は等しく大切な存在ですよ。まあ、中には帰ったら本当に塩を撒いてやろうかっていうような人もいますけどね。おっと、これは失言でした。それはともかく、今日はどうされました? そろそろZ900RSの車検でしたっけ? 

田中:僕のはド初期の18年型なんで、たしかにもうすぐ4度目の車検ではあるんですが、じつは買い替えもプランのひとつにあって、今日は色々相談したくて来たんです。

本音:なるほど、そういうことですね。で、何か候補の車種が? 

田中:いや、まだその前段階。ウチの大蔵大臣をどうやって説得するかが問題だし、逆に言えば、嫁の承認を得られるなら多少は車種選択に妥協するし、いい返事が得られないならZ900RSをもう少し乗ってもいいかと……。別に、何か不満があるわけじゃないんで。ただ、せっかく趣味でバイクに乗っているんだから、同じ車種に乗り続けるのもいいけど、他のバイクも味わってみたいというだけなんです。

本音:大蔵大臣って、田中さんも意外と昭和ですね。まあ、私も同じですけど……。そして、状況は理解できました。不満はないけど乗り替えたいという気持ち、よ〜く分かりますよ。実際、お客様の中にも大勢そういう方はいらっしゃいます。

田中:ですよね。嫁には軽く打診したんですけど、「どうして買い替えるの? 壊れたの?」なんて聞いてくるわけです。もちろんZ900RSは絶好調なんで、ウソをつくのも嫌ですし、だからと言って「いや、なんとなく」なんて答えたら、いい返事がもらえるわけがありません。ゴリ押しで買い替えを渋々了承させても、その後の火種になることは明白。こんなこと、バイク屋さんに聞くのもどうかと思いますけど、財布の紐を握る嫁がバイクの買い替えを快諾してくれる、魔法の言葉ってないですか? 

本音:あはは、そんな言葉を知っていたら、バイク屋なんてとっとと辞めて、有料のオンラインセミナーでもやりますよ。まあでも、イッパツで仕留められ……、あ、説得できるかは微妙ですが、いい感じで使えて、そこから奥様の強固な買い替え阻止バリアを突破できるかもしれない言葉はありますよ。

田中:えっ、マジ!? あるんだ……。それ、ぜひ教えてください。成功したら、絶対にこのお店でまたバイク買いますから!! 

本音:はい、もちろん。でもこれ、田中さんも経験や肌感覚で知っていると思います。「バイクは資産」。これに尽きます! 

田中:バイクは資産……。まあ、たしかにそう言えなくもないですね。売却するときには、それなりの値段になることが多いですから。

本音:いやいや、趣味で使う道具として考えたら、バイクの残存価値はだいぶ異例だと思いますよ。例えば10年落ちでも、よほどボロいか走行過多か超不人気車を除けば、新車価格の半分程度かそれ以上で販売されている中古車がゴロゴロしています。もちろん中古車販売価格と買い取り価格は違いますし、外国車は新車から数年間の値落ち幅が全般的に大きめの傾向ですが、バイクというのは全般的に、価値が減りづらいんです。

田中:僕は趣味でゴルフもするんですけど、そう言われてみたら、使い古した10年前のゴルフクラブなんて、一部製品以外は買い取りでたいした値段がつかないことが多いです。まあ、バイクと比べたらそもそもの価格が低いですけど、償却率で考えたらバイクよりもずっと悪いですね。

本音:同じエンジン付きの乗り物ということでクルマと比べてみても、基本的にバイクは優秀。近年は、半導体不足や材料高騰や生産コスト増などで、新車の供給遅延や不足、値上げも相次ぎ、その影響でクルマの中古車相場は上昇傾向。さすがに、10年落ちで走行距離10万㎞のコンパクトファミリーカーでも、本体価格がヒト桁万円なんていうのは減りましたが、それでも新車当時価格とのギャップはバイクより大きいです。

田中:でも、トヨタのアルファードやハイエースとか、古い国産スポーツカーが国内外で大人気とかで、スゴく高騰しているって聞きました。それから考えると、バイクは値落ちしづらいけど、儲かるところまでは期待できないってことですかねえ? 

本音:そんなこともないですよ。バイクだって、コロナ禍をきっかけに再び旧車ブームが沸き起こり、カワサキのZ1とかZ2あたりは異常なほどの高値になりました。それ以前から、スズキのGSX1100SカタナやヤマハのRZ250をはじめ、人気旧車は高値になることはあっても、ほぼ値落ちしませんでした。

田中:いわゆるプレミア化ってやつですね。好きなバイクを乗り回して、何年も楽しんだのに1銭も損しないどころか最終的にはプラスになるなんて、超羨ましすぎます! 僕も、次に乗るなら価値が上がりそうな旧車にしようかなあ……。

本音:もちろん、購入するのはお客様の自由ですが、よほどの財力と覚悟とある程度の知識がないなら、旧車はオススメしません。

田中:どうしてですか? これまでの歴史上、旧車は値落ちリスクがほとんどないんですよね? まあ、そうは言っても何百万円もするZ1とかカタナは現実的じゃないけど、そこまでの値段になっていない旧いバイクは、狙い目のような気が……。

本音:最近は芸能人なんかが、旧車を入手したのをユーチューブ動画にしていて、そういうのに感化されるのか、何も知らずに、新車や認定中古車と同じような感覚で、90年代あたりのバイクを買っている人もいるんです。たまにウチにも来ますよ。「調子が悪いんで修理してください」と。「いやいや、もうそんな古いバイクのパーツはウチでは手に入らないし、部品がなければメカニックもただの人ですから……」と、丁重にお断りしていますけどね。

田中:古いバイクだからこそ、故障のリスクは高いですもんね。そんなとき、補修パーツと修理してくれるショップがなければ、せっかくの旧車もただの鉄クズってわけか……。

本音:旧車を所有し続けるためには、維持できる環境も整える必要があるんです。最低限、今後のメンテナンスで必要になりそうなパーツは、新品でも中古でもある程度はストックしておくべきだし、さまざまな情報を集めておく必要もあります。Z1とかZ2とかカタナのような人気車種は、専門ショップが膨大なノウハウやストックパーツを持っていて、中には廃番パーツを自社製作していることもありますが、それだっていつまで生産してくれるか分かりません。他のショップで車体を購入した人には、ストックパーツを供給してくれないかもしれません。加えて、レアな旧車には盗難のリスクというのも付きまといますしね。

田中:なんか話を聞いているうちに、旧車で一攫千金というのは、屋根付きガレージすらない僕には夢のまた夢に思えてきました。やっぱり、ごく普通に新車あるいは高年式の中古車として購入できるバイクのほうが、自分には合っていそうです!

買い取りや下取りの価格に影響を与える要素の代表例

  1. 中古車市場におけるその車種の人気
  2. 車両の状態(キズの有無や走行距離など)
  3. 現行モデルの場合は、新車の供給状況
  4. 円相場(とくに輸出人気車種の場合)
  5. 査定を依頼する業者やシステムによる差

もはや、バイクは資産。リセールバリューは怪物級!?

ホンダ・CBR250R<ABS>(14年モデル)

ほとんどのユーザーは、生活や仕事ではなく趣味としてバイクを楽しんでいるが、例えば釣りやゴルフといった他のメジャーな趣味の道具と比べて、バイクのリセールバリューは年数が経過しても落ちづらい傾向にある。しかもバイクがスゴいのは、プレミアムモデルや超人気車種でなくても、高めの価値が維持されやすい傾向にあるところ。例えば、新車価格が約50 ~ 58万円だった2 代目CBR250R の14 ~ 15 年モデルは、現在の中古車価格が約22 ~ 39 万円。普通に使われた10 年落ち中古でも、十分な価値が残っているのだ。

バイク未来総研による最新のデータでは……

バイク未来総研(運営:バイク王&カンパニー)は、“新車で購入可能な国内メーカーのバイク(逆輸入車を除く)”を対象としたリセール・プライスランキングを、定期的に発表している。このデータは、オークションで売却した際の落札金額の平均値と、新車販売価格を基に、リセール・プライスをポイント化。数値が高いほどリセール・プライスが高いと判断し、排気量帯別と総合でのトップ10 を公表。24 年9 ~ 11月を調査対象時期とした最新発表データでは、右の5 車種が総合ランキングのトップ5 に挙げられている。

1位:カワサキ・Z900RS SE
2位:ホンダ・X-ADV
3位:カワサキ・エリミネーター
4位:カワサキ・エリミネーターSE 
5位:ホンダ・ゴールドウイングツアー

人気のある絶版車なら将来の価値高騰も期待大だが……

近年は再び旧車ブームが到来しており、とくにコロナ禍は驚くほどの高騰が続いた。旧車というのは、この先もこの世に存在する数が増えることはなく、希少性は上がるばかり。人気が高い車種なら、高騰している状況で購入したとしても、例えば10 年後にそれ以上の高値で売却できる可能性も大きい。ただし、それなりのコンディションを維持するためにはしっかりとした保管場所も必要だし、メンテナンスの費用もかかる。さらに、盗難のリスクも……。知識と潤沢な資金がない状態で手を出すと、泣きを見るかも!?

カワサキ・750RS(Z2)
ホンダ・ドリームCB400フォア

“地味”や“定番”から大化けする車種もある

本音:リセールバリューということでは、ここ20年以内に販売されたモデルでも、生産終了の発表をきっかけに、直後からプレミア化して、中古車が新車以上の価格で取り引きされた例は多数あります。

田中:つまり、現在販売されている新車にも、そういう車種が隠されているかもしれないということですね。そういうバイクを、事前に予想して買えないもんでしょうか?

本音:それが予測できたら、借金してでもバイク屋がみんな買い占めますよ。新車で普通に買えるうちに。

田中:そりゃ、そうか……。それならせめて、近年プレミア化した車種の傾向や共通項とかは?

本音:この20年間だと、生産終了後に高騰したのはカワサキのゼファー750、ヤマハのセロー250やSR400、ホンダのCB400スーパーフォアあたりが有名。この4車に共通していることのひとつは、新車販売末期にそれほど注目されていなかったということだと思います。

田中:つまり、ユーザーに不人気の車種だったということですか?

本音:いえ、不人気というわけではなく、当たり前に存在しているバイクと言ったほうが正しいと思います。これらのバイクが高騰した後、うちでも「買っとけばよかった!」とか「昔から、いいバイクだと思っていたんだよ」なんて悔しがる常連さんが大勢いましたけど、普通に新車が買える段階ではアナタたち、「古臭い」とか「性能が物足りない」とか「おもしろさが理解できない」なんて酷評してましたよね、と。

田中:あはは。大学生時代に、同じサークルにいた地味だけど性格のいい女子が、長期の海外留学することになったら、告白する男子が列をなしたのを思い出しました。僕もそのひとりでしたけど……。

本音:それまで自分のそばにあって、いつでも手が届くはずだった存在が、急にそうではなくなると、なぜか魅力的に見えるんですよねえ。でも、すべての物や人に当てはまるわけじゃないですけどね。バイクの場合、日本では趣味として所有する人が圧倒的多数なので、歴史的要素も重視される傾向。最近だと、ホンダのスーパーカブ50が生産終了となり、昨年末発売のファイナルエディションは約1万1000台の受注があったそうですが、これもカブという歴史があってこそ。まあ、50は流通量が極めて多いので、すぐにプレミア価格になることはまずないと読んでいますけどね。

田中:現存数が多すぎるとプレミア化しないというのは、理解できます。やっぱり、希少だから高くても買いたい人が増えるんでしょうから。

本音:だから過去には、バイク関連業者が特定車種の中古車を買い占めて倉庫に保管し、意図的に市場の品薄状態をつくるなんてことも……。

田中:近年問題となることが多い転売ヤーと同じで、本当に欲しい人にとっては腹が立つ話ですね!

本音:まあ、それが商売でもあるし、すでにその車種のオーナーだった人にはラッキーですし、捉え方は難しいところですよねえ……。それに、その車種が本当に好きなら、新車や中古車がいっぱいあるうちに買えばよかったわけです。限定車で最初からレアだったとか、新車が品薄で買えなかったとか、不運にもライダーデビューする前に値上がりしていたなんてこともあるでしょうけど。

田中:新車で買って、そのバイクがそれほど大人気にならなくても、大きな転倒や事故をせず大切に乗れば、売るときにある程度の価値はほぼ間違いなく残るわけですもんね。嫁にはやっぱり、「バイクは資産」の方向で攻めてみます!

本音:奥様には、「ルイ・ヴィトンのバッグみたいなものだから」と教えてあげると理解しやすいかも。10年後にプレミア化している保証はどこにもないけど、大事に使っていれば、たぶんいくらかの価値は残る……というような感じですかね。

田中:そうですね。儲かるかもなんて、あまり期待されすぎても困ります。こちらとしても、いくら買い替えの許可が下りたとしても、次に購入する新車の車種選択が、大きく制約されちゃいそうです。

本音:本当に狙うと、そうなります。ファイナルエディションとなるホンダのCB1300スーパーフォアあたりは、プレミア化する可能性が濃厚ですが、Z900RSに乗っていた田中さんが、同じようなトラディショナルデザインの水冷4気筒ネイキッドにまた乗りたいかどうかは、また別問題。国産リッタースーパースポーツも、リセール率としては優良物件揃いなんですが、ツーリングには使いづらいから、価値は落ちなくても楽しめないかもしれません。

田中:そう考えるとZ900RSは、今の自分にとても合っているし、乗り替えなくてもいいのかも……。

本音:しかも、新車が売れて流通量も多いのに、人気があるから中古車は高値安定傾向。じつは、お話しながらスマホでサクッと調べたところ、田中さんが所有する18年型の火の玉カラーは、新車当時の価格が約133万円でしたが、中古車は今でも100万円以上で売られています。

田中:えっ、それってつまり……。下取り価格もかなりの額が見込めるということ? やっぱり嫁に買い替えを交渉したいから、ぜひちゃんと下取り査定してください!

一発逆転を狙うなら、他人とは違う道を行け!?

モノがないのに欲しい人が多ければ中古車価格は上昇しやすく、ユーザーからの買い取り価格も上がる。この原理から、生産終了以降に中古車価格が跳ね上がった例がゼファー750。新車が売れず大幅値引き販売され、カワサキ関係者の中には半ば無理矢理買わされた人がいるなんてウワサもあったが、これが本当なら超ラッキーだった。ちなみに、不人気ではなかったがセロー250 も、生産終了が発表されるまでは新車が普通に値引き販売されていた。こういうモデルに巡り合えると、売却時にはむしろ得する場合もあるから、バイクライフはおもしろい。

カワサキ・ゼファー750
ヤマハ・セロー250

リッタースーパースポーツは相場が高値安定傾向だが……

00 年代初頭のブームが終わって以降、速さを追求した本格的なスーパースポーツの新車販売台数は少なめ。しかも、このカテゴリーはサーキット走行などのクラッシュで潰れたり、海外に輸出されたりする車両が多いことから、この20年ほどは中古車相場が高値安定傾向にある。そこに生産終了という要素が加わって、中古車相場が跳ね上がったのがYZF-R6 やGSX-R1000R。さらに予備軍としてはYZF-R1 がある。とはいえ、サーキット走行好きでもないのに、リセールのことだけ考えてスーパースポーツに乗るというのも……。

ヤマハ・YZF-R6
(18年モデル)
スズキ・GSX-R1000R
(19年モデル)
ヤマハ・YZF-R1
(24年モデル)

結論! 人気車種を選び大事に乗ることで乗り替え巧者に!!

これまでは愛車のリセールバリューについてあまり意識してこなかった田中さんだったが、「バイクはロレックスの時計みたいなもの?」と思うように。高価だが、壊さず盗まれず大切に所有すれば、使い続けても価値はゼロにならず、モデルによっては新品と同等以上の価格で売れる場合もあるからだ。そしてこの点は、嫁の説得材料にも使えると感じた。「趣味だから、好きな車種に乗るのがイチバンですよね!!」と言いつつ、少ない追金で人気車種を乗り継ぐという夢のようなバイクライフを想像して、思わずにんまりする田中さんであった。

カワサキ・Z900RS(18年モデル)

Z900RSは中古車でも大人気で、3万㎞以上走行している初期型でも100万円前後で販売されている。乗り替えを考えている田中さんにとっては、これも妻を説得する武器になる

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