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【読書から考えるバイクライフ】又吉直樹『火花』を読んで熱海ツーリングへ!先輩後輩の絆と成長の物語

芥川賞を受賞し、大きな話題を呼んだ又吉直樹の小説『火花』。売れない芸人が先輩との関係の中で成長し、自分の道を模索していく姿は、バイク仲間の関係にも通じるものがあります。バイク仲間との先輩後輩関係、成長、そして熱海海上花火大会という舞台。本を読んで、バイク旅へ出るきっかけにしてみませんか?

※BikeJIN vol.266 2025年4月号参照

先輩後輩の関係と成長|バイク仲間との共通点を考える

今月は、本好き芸人として知られる又吉直樹さんの小説「火花」を紹介します。「お笑いタレントが純文学で文芸誌デビュー」と話題になった作品です。第153回芥川賞を受賞し、単行本発行部数は250万部を超え、その数は芥川賞受賞作品歴代一位です。

売れないお笑いコンビ「スパークス」の徳永は、熱海の花火大会で出演したお笑い舞台で異様な迫力を放つ大阪のお笑いコンビ「あほんだら」の神谷と出会う。純粋な信念を貫こうとする先輩芸人「神谷」の生き様に惚れた徳永は、思わず弟子入りを申し出てしまう。徳永は二十歳、神谷は二十四歳だった。

「あほんだら」は活動拠点を東京に移し、徳永と神谷は度々一緒に時間を過ごすようになる。神谷は周りからどう思われようと“自分が面白いと思ったもの”を貫いていた。そんな信念を持つ神谷を、徳永は畏敬と尊敬の念をもって師と仰いでいた。

やがて徳永の「スパークス」は人気が出てテレビにも出演するようになるのだが、一方、神谷には大きな借金があることを知る……。

お笑い芸人として先輩と共に駆け抜けた主人公の二十代、十年間を描いた作品です。

先輩「神谷」の信念は一見カッコいいのですが、裏を返せば独りよがりであり、自己満足と紙一重です。しかし二十歳の徳永は、神谷の信念や生き様に心から憧れました。「神谷さんのようになりたい、神谷さんに褒められたい」と。

年を経て徳永も成長していきます。「スパークス」の人気に火がついてテレビに出るようになり、いつの間にか徳永は神谷を追い抜いていました。やがて徳永は、神谷を否定しなければならないときを迎えます。神谷さんの進む道は自分にとって“踏み外すべき道”ではないか、神谷さんへの憧れは幻想だったかもしれない、と思い始めるのです。

バイク仲間でも先輩後輩の関係は存在しますよね。若い頃は特に、ウエアの着こなしがカッコいいとか、走るとめちゃくちゃ速いとか、言うことがカッコいいとか、理由はそれぞれ違っても、憧れの存在になったりします。でもだんだん自分も成長して、当時の先輩と同じ年になったときや、超えた頃に、その先輩のダメな部分が見えてきたり、欠点が分かってきたりします。やがてお互いの立場は対等になったり、もしくは逆転したりして、先輩から弱音を吐かれたり、相談を受けたりすることもあるかもしれません。

どんな世界、どんな業界でも、大先輩から若手までが同じ場所で切磋琢磨しています。そんな中でこういう上下の関係が存在していて、あるところでは関係が消滅したり、あるところでは立場が逆転したり、あるいは友達という関係になったり、また新たな関係が生まれたりしているのでしょう。可愛がられる後輩という立場だったのが、いつの間にか周りが敬語で話してくるようになって、気づいたら先輩として見られるようになっています。責任を感じたりもするし、そんな立場で見られる自分に、まだふさわしくない、と思ったりすることもあるでしょう。

だけどそうやってみんな、成長して大人になってきたのですよね。

本作は、熱海海上花火大会で始まり、熱海海上花火大会で終わります。「熱海は山が海を囲み、自然との距離が近い地形である」と書かれていました。そんな場所で打ち上げられる花火は、美しさも、音の響きも、一際だといいます。私は未だにそれを体験したことがありません。本文にもありましたが、今も熱海海上花火大会は夏だけでなく一年を通じて何回も開催されています。熱海花火ツーリングも、なかなか良さそうじゃないですか。

本を読んで、バイクとその舞台に思いを馳せる。さあ、書を捨てず旅に出よう!

火花
又吉直樹著( 文春文庫刊)

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