なるほど!世界のバイク人「イギリスで増える交通事故の理由」
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ヨーロッパのほとんどの国が右側通行イギリスは左側通行なので勝手が違う移民にとっては逆走のリスクが高いそれ以外にも異なる「常識」は多い
※BikeJIN vol.265 2025年3月号参照
交通文化の違いがアクシデントを生む
最近、イギリスでは主に東ヨーロッパからの移民による交通事故が増えているというレポートを読んだ。
イギリスの道路は日本と同じ左側通行だ。世界174カ国のうち、道路の左側をクルマが走る国は、アフリカ南部、東アジア、東南アジア、大洋州などに78カ国ある。しかしヨーロッパは、マルタ島とイギリス(王室領のマン島とチャネル諸島も含む)とアイルランド以外、どこも右側通行だ。だからヨーロッパからの移民にとって、イギリスは道路の間違った側を走っていることになる。
その結果、何が起きるか。一番多いのは道路の逆走だ。逆走車が向かってきたら、普通の道でならなんとか避けることはできるかもしれないが、しかしラウンドアバウトを逆回りされたらかわしようがない。しかも彼らの運転は概して雑で、軽い衝突ぐらいではそのまま走り去るという文化のせいで荒っぽい。
また、満足に英語をしゃべれない移民が多いので、事故を起こしたときのコミュニケーションが難しい。イギリスでは小規模な交通事故でけが人がいなければ警察は来ないことが多く、当事者同士がそれぞれの連絡先や保険会社の情報を交換して終わるのが普通だが、それがスムーズにできないのだ。
さらに、イギリスにはイギリス独自のルールがあるが、EUとEEAの国の運転免許はイギリスでも70歳まで有効なので、それらを学ばずにすんでしまうことも問題だ。
現代のコンテクストで移民と言うとき、多くの場合、それには難民が含まれている。空路や海路で港に上陸して亡命を希望するアサイラムシーカーや経済難民、人身売買や密入国による不法難民だ。そして近年のヨーロッパ各国では、移民が増えると犯罪も増えて、治安が悪くなることが実証されている。
そういう犯罪の最悪の例は、各国で頻繁に起きているテロリストによるものだ。ヨーロッパの地図に重大なテロ攻撃が起きた場所を赤のマーカーで書き込んでいくと、どの国もたちまち真っ赤になってしまう。しかし1カ所だけ、ぽっかりと穴が開いたように何も書き込まれない国がある。それは、移民をいっさい受け入れていないポーランドだ。これが何を意味するかは考えるまでもない。
移民が起こす交通事故は、実は移民だけの問題ではない。交通文化が異なる国の人間には、常に起こりうることである。世界には、われわれ日本人が知らない交通ルールがあることを考えてみよう。例えば、大半の国では鉄道の踏切で一時停止はしない。踏切の警報信号が赤でなくてバリアが下りていなければ、停まる必要はないのだ。つまり、踏切が開いているときに手前でクルマが停まるとは誰も思っていない。だから、日本のようにそこで一時停止をすると、後続車に追突されるかもしれない危険がある。
ヨーロッパではどこにでもあるラウンドアバウトも同じだ。ラウンドアバウトに進入するとき、中に優先権のあるクルマやバイク/自転車が走っていないのに停まると、やはり追突される可能性がある。実際に、日本から来たばかりの駐在員や旅行者が運転中に起こす事故でもっとも多いのが、このケースだという。
なぜこういう話をしているかというと、最近読んだ日本のバイク雑誌の記事に、海外ツーリングはいかにも簡単にできるようなことが書いてあったからだ。
クルマやバイクの運転歴が、日本よりも海外での方が長くなった私から見れば、海外ツーリングを勧めるのはけっこうだが、日本にはないこういうルールを知ることを最初に促さないのは無責任である。世界の半分以上の国では道路の右側を走らなければならないなどは初歩の初歩だが、それ以上に大事なものがあることには触れていない。それは、何か問題が起きたときに解決できる語学力と、危険に遭遇しそうになったときにそれを察知して対処する危機管理意識だ。
これらは普通の海外旅行でも同じである。もちろん、ほとんどの旅行は何事もなく無事に終わるだろうし、そうあるべきだ。だが、何かが起きないという保証はない。残念ながら、そういう危機に対する日本人の意識の低さは世界的に有名で、ロンドンやパリやバルセロナやローマでは、多くの日本人観光客がスリや強盗の標的になっている。
海外ツーリングへの意欲に水を差そうというのではない。むしろ、チャンスを作ってぜひ実行するといいと思う。郊外の制限速度は時速90キロ前後の国が多いので、その解放感は日本では絶対に味わえないものだし、何よりも日本がどんなに世界と違っているかを知ることができるのは、人生の大きな収穫だ。
そのためには、世界も日本と同じようなものだろうと高をくくらずに、こういう知識や情報を集めて蓄えることがとても大事になる。中でも重要なのは言葉だ。英語はもっとも汎用性があるが、イタリア語でスペイン語でもドイツ語でもいい。行った先での人々との積極的なコミュニケーションがないと、海外旅行は自分の思い入れや思い込みだけで終わる、底の浅いものになってしまう。
世界は危険になる一方だが、純粋な好奇心と勇気をもって出かけていくべき場所は無数にある。バイクはそのための最高の乗り物だ。クルマや観光バスの密閉されたカプセルの中の空気を吸っているだけではわからない発見があることを、バイクライダーはみんな知っている。
しかし、日本はいまやG7中の最貧国だ。過去9年間のGDP成長率は、アメリカはプラス50%、ヨーロッパは国によってプラス20~40%だが、日本はマイナス5%である。海外に行けば、価値の低い日本円に頼る旅行者は、しばしば惨めな気持ちを味合わされる。そのことだけでも、海外ツーリングが簡単だとはけっして言えないだろう。
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