【正直ディーラー】初心者がビッグアドベンチャーバイクで林道ツーリングは可能?最適なオフロードバイクの選び方
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とある街に、主要な国内外バイクブランドの現行車をすべて正規販売可能なディーラー契約規定が厳しい現代の日本では実現不可能と思われた二輪販売店がある「正直ディーラー」と呼ばれるこの店を支えるのは本音語男。長所だけでなく短所も隠さずユーザーに伝える、凄腕のセールス担当者である。今日もまた、愛車選びに悩むバイク乗りがショールームを訪れ、語男に助言を……
※BikeJIN vol.265 2025年3月号参照
包み隠さず本音のの営業トーク!?
正直ディーラー・セールス担当
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本音語男(ほんね・かたろお)
国内と海外の二輪メーカーが販売する現行車に精通する凄腕の二輪ディーラー営業マン。自身もツーリングやサーキット走行やモトクロス遊びで多彩なバイクに乗りまくり、その経験もセールストークに活かす。好きな言葉は「誠実」、嫌いな言葉は「忖度」
今回のお客様
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社会人数年目になんとなく二輪免許を取得したところすっかりハマり、今では毎週末のように大型バイクをライディング。サーキット走行会には何度か挑戦済みで、次は林道ツーリングをしてみたいと考えている
舗装路と同じ感覚だと想定外の苦労に遭う!?
A:すいません、ちょっとお聞きしたいことがありまして……。こちらのお店、日本に入荷している新車なら何でも買えるとバイク仲間から聞いたんですけど、アドベンチャーとかもですか?
本音 :いらっしゃいませ、もちろん取り扱っております。どのモデルがご希望でしょうか?
A:いや、それが特定の車種はないんです。ただ、これから林道ツーリングとかでオフロードを走ってみたくて、それならやっぱり、アドベンチャーがいいのかなって……。
本音:なるほど、ということはお客様は、これまでオフロードバイク経験がないような感じでしょうか?
A:はい、免許を取ってからこれまでオンロード系ばかりでした。でも、バイクのことは多方面に興味があって、走行会でサーキットも数回走ったし、次はオフロードかな……と。勝手なイメージで、サーキット以上に体力があるうちじゃないと楽しめなさそうだから。
本音:まあ確かに、オンロードと比べたらオフロードは、体力が必要ですね。私はどちらも嗜むのですが、サーキットよりはモトクロスコース、ワインディングよりは林道のほうが疲れます。ただ、私の経験で言わせていただくなら、林道を走りたいからアドベンチャーという選択は、少し安易すぎるかも……。
A:えっ、そうなんですか? てっきり、それが最良だと思っていました。じつはまだ憧れの段階で、アドベンチャーのことは本当に知識がないんです。もしよかったら、詳しく教えていただけませんか?
本音:もちろんです。ではまあ、お座りください。まず基本情報として、アドベンチャーは1000cc前後の大型クラスを中心に発展してきたカテゴリーなのですが、あまりダウンサイジングが進んでおらず、ミドルクラス以下も多少はありますが、それらはサスペンションや電子制御がそこまでハイレベルじゃありません。オフロード走破性を求めるなら、基本的には600ccクラスくらいが最低限で、上はリッタークラスになるのですが……。
A:今さら400cc以下には戻りたくないので、どちらにせよ買うならミドルクラス以上と考えていました!
本音:ところがビッグアドベンチャーは、言うまでもなくデカくて重いんです。BMWのR1300GSアドベンチャーなどは、オンロードで乗るのにもちょっと身構えるような巨漢ですけど、ヤマハのテネレ700のようにシュッとしたバイクですら、ダートに突入した途端、手強い車格という印象に変わります。
A:でも雑誌やカタログでは、リッタークラスでもオフロードをガンガン走らせているじゃないですか!
本音:あれは、プロライダーたちによる演出ですよ。そもそも、そういう派手な走りと、林道のさまざまなシーンに対応できるライテクは別。そして体格に恵まれていないと、足着きと引き起こしには苦しめられることが多いんです。
A:あ、それなら心配無用です。身長は170cm以上あるし、お恥ずかしながら以前乗っていたリッターネイキッドを2度も立ちゴケさせたのですが、すぐ引き起こせました!
本音:でもそれ、舗装路での話ですよね。まず、オフロードでは停車時の路面がフラットとは限りません。だから慣れている人は、傾斜の山側に足を着くとか、停止前に足を着きやすい場所を探しておくなどしていますが、初心者は走ることに精一杯で、そこまで考えが及ばないことも多いんです。
A:つまり、よほど身長が高くないと、足着き性については余裕がないかもしれない……と。
本音:R1300GSシリーズのように、最近は停車時に自動で車高が下がる機能を搭載した車種もあるのですが、ビッグアドベンチャーは車重があるので、車体が斜めの状態だと、足がそれなりに接地したとしても、支えられず転んでしまうこともあります。そんなとき、ビッグアドベンチャーは当然ながら起こすのも重い!しかも地面は滑りやすく、力が逃げてしまうので、想像よりも引き起こしが難しいんです。もちろん走行中も、滑りやすいオフロードは転倒のリスクが増えますしね。
A:なるほど。環境がハードになるから、舗装路と同じように考えてはいけないんですねえ……。
林道遊びに最適な車種選びに影響しやすい条件&計画
- オーナーの身長、体重、足の長さ、腕力
- 複数台所有の可否
- ダートが多くある地域までの距離
- 一緒に楽しむ仲間がいるか、基本はソロか
- 雰囲気を味わう程度か、ハードに楽しむか
少ないようで多い!?オフロードを走れる現行車
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国内メーカーのオフロードスポーツやトレールモデルは、90 ~ 00 年代と比べたら新車ラインナップは減少傾向。とはいえ、この10 年ほどは各社ともアドベンチャーモデルの開発に力を入れており、「フラットダートくらいなら走れる車種」も含めたら、それなりの数になる。加えて、海外メーカーも多彩なオフロードモデルやアドベンチャーを展開しており、こちらにも視野を広げると選択肢はだいぶ増える。昨年から今年にかけて国内メーカーにも新型オフ車導入の動きがあり、ダート系の注目度が上がりそうな気配も……。
アドベンチャーは重さとデカさがネック
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CRF250L〈s〉 | CRF1100L アフリカツイン〈s〉 | |
車重 | 141kg | 231kg |
シート高 | 880mm | 870/850mm |
全長 | 2230mm | 2330mm |
エンジン形式 | 水冷 単気筒 | 水冷 並列2気筒 |
最高出力 | 24馬力 | 102馬力 |
排気量200 ~ 250 ㏄の“オフ車”と1000㏄前後のアドベンチャーでは、同じようにダート走行を視野に設計されたモデルでも、車格や性能はかなり違う。例えばホンダの軽二輪オフロードスポーツとリッターアドベンチャー(いずれも前後サスが長い仕様)を比べてみると、車重は90 ㎏もの差が……。シート高は同等でも、足場が悪い未舗装路で重くてデカいアドベンチャーを支えるには、それなりの体格や筋力あるいはバランス感覚が必要なのだ。また滑りやすい路面では、パワーがありすぎると制御は難しくなりやすい。
99%以上のオーナーがオフロードを走らない!?
本音:そうですねえ……。オススメはヤマハのセロー250、と言いたいところなんですが、残念ながらすでにラインナップ落ち。新型発売のウワサもありますが、まだ姿は現しません。中古車や新古車は生産終了と同時にプレミア価格化していて、今は少し落ち着いたとはいえ、高年式で走行距離が少なめだと、乗り出しで50万円以上は確実。かなり割高に感じてしまいます。
A:セローは、オフ車に縁遠かった僕でもアチコチで「いいバイク」と聞くのですが、そんなにですか?
本音:オフロード入門用としては、最高だと思います。セローは空冷単気筒エンジンで、車重は最終型でも133㎏。ホイールは、オフ車のフルサイズとなるフロント21インチ、リア18インチ径なのに、シート高は830㎜に抑えられていて、悪路でも足を着きやすく、しかも軽いから支えやすいんです。
A:僕のようなオフ初心者が悪路をゆっくり走るには、不安が少ないわけですね。新車で買いたかったなあ……。あ、それならセローに近い現行モデルはないのでしょうか?
本音:シート高で考えたら、ホンダのCRF250Lが同じく830㎜。こちらはエンジンが水冷で、車重は141㎏です。ただこのモデルには、長い前後サスと専用シートを備える仕様もあって、こちらのほうがオフロードでのバランスや操縦性は絶対的に上。でもシート高は880㎜になっちゃいます。あとカワサキは、昨年11月にKLX230シェルパという232㏄空冷単気筒モデルを新発売。車重134㎏でシート高は845㎜と、セローがあったらまさに対抗馬になっていたと思います。ちなみにカワサキは同時に、もう少しスポーティなKLX230Sと、これの足長バージョンとなるKLX230も新発売しています。
A:スマホでちょっと調べてみたら、どのバイクもメーカー希望小売価格は59〜64万円の範囲。これなら、今の愛車を売って乗り替えても、お釣りがきそうな感じです。
本音:いや、そうではあるんですが、ちょっとお待ちください!
A:せっかく人がその気になったのに、なぜですか!?
本音:すべてを250㏄オフ車でまかなうのは、それはそれで辛いからです。これまでと同じような距離を高速巡航するのは厳しいし、仲間とのツーリングでは置いていかれがちになるかも。
A:そ、それはありそう……。乗ったことはないけど、250㏄オフ車でアイツらと一緒に行動する未来が、まるで見えません!
本音:250㏄クラスのオフ車は、林道デビューには本当にオススメだし、これでオフロードに慣れたら、それこそビッグアドベンチャーにもそれほど臆せず乗れると思います。一般道をゆったりペースでツーリングするのにも最適。でも、大型クラスのオンロードスポーツバイクで成り立っていたこれまでの遊び方やコミュニティでは、ネガもあるんです。パワーに余裕を持たせるためにもう少しだけ排気量を上げて、スズキのDR-Z 4Sなんていう手もあるんですが、国内発売までにはまだ時間がかかりそうとも聞いていますし……。
A:DR-Z4Sでも、400㏄クラスの単気筒エンジンということですよね!? ワインディングや高速道路の走りということでは、根本的な解決にはならなさそうです。
本音:そうなんです。だから、例えばセローなどのオフ車で林道を楽しんでいるライダーの中には、オフ車とは別にメインマシンを所有している人が多くいらっしゃいます。
A:つまり、セカンドバイク……。
マウンテントレールはセローが生み、育んだ
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(’20年1月発売)
高性能化傾向にあった当時のオフ車たちとは一線を画す、オフロードライディングを誰もが楽しめるモデルとして、’85 年にヤマハが新発売したのがセロー225。ゆっくりでもいいから“2 輪2 足”で確実に進む、マウンテントレール(またはトレッキング)という遊びを提唱した。225 系は熟成を続けながら20 年間も販売され、05 年には同じく空冷単気筒エンジンを積むセロー250に発展。この2 代目も、フレンドリーでタフという初代の基本路線を受け継いでおり、20 年の最終型まで、多くのライダーから支持を集めた。
セロー不在の隙をついたシェルパの秀逸な戦略
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ヤマハ・セロー225 シリーズの対抗馬としてカワサキが97 年に導入したのが、KLX250 用の249 ㏄水冷単気筒エンジンを空冷化して専用の車体と組み合わせたスーパーシェルパ。左右各51 度のハンドル切れ角と810 ㎜のシート高、111 ㎏の乾燥重量という扱いやすいパッケージで、セローを脅かす存在となった。07 年型まで販売されたこのモデルの車名を受け継ぐのが、25 年型で登場したKLX230 シェルパ。以前のスーパーシェルパよりハンドル切れ角は少なくシートは高いが、今ならマウンテントレールの王座を確実に狙えそう!?
アドベンチャー系はホイールサイズに注目!!
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前輪17/後輪17インチ
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前輪19/後輪17インチ
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前輪21/後輪17インチ
ビッグアドベンチャーでの林道ツーリングは難易度が高めだが、例えばフラットダートで仲間と一緒なら、初中級者でも十分楽しめる。ダートも走るつもりでビッグアドベンチャーを選ぶときは、フロントのホイールサイズに注目。前後17 インチ径のキャストホイールを履くモデルの多くは、ほぼオンロードのみ走ることを前提に設計されている。オフロード走破性にこだわって開発されたモデルの多くは、前輪が安定性に優れる21 インチ径あるいは19 インチ径で、多くの場合は衝撃吸収性に優れる前後スポークホイールだ。
結論!セカンドバイクで軽二輪オフ購入を本気で検討!!
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アドベンチャーモデルの世界観に夢膨らませていたA さんだったが、語男との雑談を経て、「林道を走るバイクとしては、自分にはまだ早いのかも……」と断念。それと同時に、軽二輪クラスのオフ車に乗り替えるというプランも、「仲間とのツーリングが辛そう」という理由で消えた。そして、「もっとも現実的な選択は、セカンドバイクとして車検のいらない250 ㏄以下のオフ車を所有することかもしれない……」という考えに。セロー復活のニュースも気にしつつ、CRF250LシリーズやKLX230 シリーズの中から、狙いを定めることに!
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スズキは、一部地域を除いて販売が終了していたDR-Z400Sの後継として、昨年11月にDR-Z4Sを発表済みだが、ウワサによると日本での発売開始は今年秋頃になりそう……