【マヒトに訊く】還暦からのバイクライフ
取材やイベントのにならず、プライベートでも日本各地をバイクで走り回るマヒトさん。還暦を迎えるにあたって、今何を思うのか。本誌編集長とともにこれからのバイクライフを語る。自身に起こる変化とバイクライフの向き合い方とは
身体の衰えを補う方法は積極的に取り入れるべき
本誌が創刊した2002年から、日本全国を旅するツーリング記事を連載しているマヒトさん。彼は取材だけでも毎月のようにバイクで旅に出かけるスペシャリストです。そんなマヒトさんが2024年12月26日にめでたく還暦を迎えるということで、編集長モリとの特別座談会が企画されました。
還暦といえば、人生の大きな節目です。当たり前のように長年バイクに乗り続け、「バイク乗らんでなんの人生か!」を信条とするマヒトさん。そのバイクライフにはどのような変化が訪れているのでしょうか。今まさに彼が感じていることには、「いつまでもバイクに乗りたい」という今号の特集テーマに通じるヒントが隠されているはずです。
そんな思いを胸に、都内の居酒屋で盃を交わしながら語られる話に耳を傾けました。
マヒト
1964年12月26日生まれ。大阪府出身。本誌連載企画を創刊から担当するツーリングライダー。バイクイベントのMCや企画運営にも携わるなど多岐に渡って活動し続ける。2015年に再結成したロックバンド「HALFWAY Boys」ボーカルとしても活動中
編集長 モリ
1991年3月8日生まれ。静岡県出身。マヒトさん連載企画を長年担当したのち、本誌編集長に就任。雑誌、イベント、WEBサイトなど多方面をプロデュースし、バイクメディアの可能性を追求中
還暦を迎えて年齢からくる衰えって感じますか? --モリ
モリ:あらためまして、マヒトさん! 還暦おめでとうございます!
マヒト:ありがとう!モリが連載を担当していたころには、こんなときが来るなんて思いもしなかったよ。やっぱり還暦を迎えると「このステージにようやく来たのか」って感じるよ。でもあんまり成長してないんちゃうか(笑)。
モリ:いやいやいや(笑)。でも正直なところ、バイクに乗っていて衰えというか、変化を感じることってあるんですか?
マヒト:感じるよそれは。
モリ:えっ!そんなにはっきり自覚しているんですね。
マヒト:そりゃそうよ(笑)。毎月のように、ロケや仕事で普段とは違う場所を走るわけなんだけど、道路の状況やその土地独自の地元ルール的なことがあるのね。
モリ:なるほど。
マヒト:「あれ、どれがセンターライン?」とか。走行中に起こるそういう変化をスッと読めていたのが、だいたい50歳くらいまで。考えなくても自然と感じられていたんだけど、それが55歳を過ぎたあたりから「…あれ?」って判断するまでにブランクがあって、1〜2秒くらいかかる感覚。
モリ:そんな変化があったんですね。気づきませんでしたよ。
マヒト:1〜2秒ってかなり大きいからさ。そこで昔みたいな感覚でダーンッと走ってばかりだと、コーナリング中に曲がりきれなくて対向車線に突っ込んだりとかするんやろうなっていうのがなんとなく分かるよ。
モリ:若いころとは走り方が変わったと。
マヒト:うん。でもそれに伴って、長時間乗ることが苦じゃなくなってきているよ。今の自分に合った乗り方が分かってきて、この前なんて三重から都内までずーっと下道で走って帰ってきてさ。12時間くらい。国道23号線をずーっと走って、1号線を通って御殿場のあたりから道志みち入ってワンディングも走ってさ。そのときの車両はホンダのNX400だったんだけど、もちろん大型車ほどパワーはないんだけど、それが逆に楽やったのかも。ダウンサイジングしたことによる気軽さっていうのかな。それを感じたなぁ。でも周りの先輩たちはみんなそれくらい乗ってるからさ(笑)。
反応速度の衰えはある。でも、それをカバーするのが“経験”や“新しい技術” --マヒト
BMW R1250RS
長距離ツーリングからスポーティな走行まで幅広く対応できるスポーツツアラー。「スポーティーな走りもできるし、俺が今までしてきたことがすべて体現できると思うのよね」
HONDA NX400
2024年に発売された街乗りからツーリングまで幅広い用途で走れるデュアルパーパスバイク。三重県から下道で都内まで走った際も「まったく苦じゃなかった」と話す
旅を変えるかもしれない新しい技術との向き合い方
モリ:同世代やこれから歳を重ねるライダーに伝えておきたいことってありますか?
マヒト:「新しい技術をちゃんと〝試食〞してや」とは思うかなぁ。最近はACCとか自動変速機構とかの進化がすごいけど、初めから毛嫌いしてしまうのはどうなんやろう。「Eクラッチ」、いいと思うよ俺は。だって、クラッチを握る、つなぐという行為が一つなくなるだけで、それ以外の別のことを一つ考えられる。歳をとれば脳の処理能力が落ちるのは当然なんだから、デバイスに任せられるところは任せればいいんじゃないかな、とは思うよ。ただ、バイクに乗る面白さっていうのはなくしていって欲しくないからさ、自動変速機構が使えるとしてもそこは残して欲しい。
モリ:そこまで受け入れているとは思いませんでした(笑)
マヒト:もしかしたら、そういうバイクに乗ることであなたの旅やサーキット走行がものすごく充実するかもしれない。そういう意味での〝試食〞ね。
やりたいことが全部できるいま思う終のバイクとは
モリ:まだ先だとは思うんですけど、〝終のバイク〞がどういうバイクになるかイメージあります?
マヒト:今のところ? ある程度スポーツ走行ができるバイクがいいと思ってるんやけど、うーん……。正直なところ、決めかねている自分がいるよ。でも、最有力は「BMW R1250RS」かなぁ。カウルが付いていて、ほどほどのパワーで、スポーツ走行もツーリングもできて、キャンプ道具もしっかり積むことができる。今まで俺がやってきたことの全部ができるのがR1250RSかなと思う。今のところね。これから先、自分が衰えていくところをフォローアップしてくれるやろなって思わせてくれるよね。そこがBMWのアドバンテージ。GTとかRTまでいっちゃうと、カオが大き過ぎてバイクっぽくない、1000Sまではスポーツを求めていない、となったときに1250RS。乗ったとき、こんなズルいもん持ってやがったのかって思ったね(笑)。
モリ:なるほど。
マヒト:国産メーカーでダブルシートとか1本で長いシートのバイクがあったらそれも候補なんやけどね。ツーリングに行った時の自由度と荷物を積んだときのためにフラットにしておいて欲しい。段付きシートやと、パッセンジャーのヘルメットが「コンッ」て当たるのよ。それがイヤ。それでいうと、ロイヤルエンフィールドのクラシック350がイメージに近いかな。価格もリアルなところよね。でもこれが5年後には候補のバイクがまったく変わっているかもしれない。そこも面白いよね。
安全なツーリングを支える快適な愛用グラス
モリ:車両以外に装備するアイテムも変わってきそうですよね。いろいろな道具を試していますよね。
マヒト:そうね。ツーリングを助けてくれるのがそういう道具だから。最近はとにかく暑いからその対策も大事。冷却ベストなんかもいろいろ試したよ。今のところいいのは水冷するタイプのウエア。若者でも年配でも夏はみんな暑いんだから、全員こういうアイテムを身につけるべきと思うね。あとはHYODの着るエアバッグ。あれもできれば着けておきたい。
モリ:視力にも影響は出てきていますか?
マヒト:やっぱりあるよ。俺の場合は、老眼が46歳くらいでキタ。コナイと思ってたんだけど、キタね(笑)。最初は認めたくなかったけど、100均の老眼メガネをかけたら見やすくてさ(笑)。そのあと遠近両用のメガネを使ってたんやけど、バイクに乗ったときはナビが見づらくて気持ち悪かったのよ。でも、川越にあるカニヤさんに行ったときに、手元も見やすいライダー専用メガネに出会って、「コレはええわ」って実感して愛用しているよ。やっぱり専用設計とか技術があるものはいいよ。キャンプギアもそうなんだけど、〝プチプラ〞はたくさんあるけど、「いつまでそれやってんねん」って(笑)。大人なんやから、相応のものを使うべきよね。子供たちにバカにされますよ、「オッサンたちは安いものしか着てない、そしてダサい」って(笑)。一級品を身につけるのは大事よ。
モリ:ヘルメットもそうですよね。
マヒト:本当にそう。さっき言ったエアバッグもだけど、お金はかかるよ。でも、そこには安全マージンが含まれているのよ。自分もそうだし、家族を守るためのお金。そこはこれからも伝えていきたいかなぁ。
ライダーには日本の魅力をもっと発信して欲しい
モリ:ツーリングの仕方というか、考え方は変わってきましたか?
マヒト:うーん……。そこは正直全然変わってないのよね。ほんまに寄り道ばっかりしてるよ(笑)。ナビばっかり見ているライダーもいて、それはええんやけどさ。「お前らの目的は〝目的地〞だけか!」って(笑)。
モリ:ロケもずっとそうですよね。もはや完全にスタイル(笑)。
マヒト:そうよ!(笑)。俺は行きの道中も、帰りの道中もずっと楽しいよ。だって、バイクってそういう乗り物でしょ? 免許取り立ての高校生のころとか思い出してみてよ。下道だけど、とにかく楽しかったでしょ? 今はなんでもかんでも高速乗って走って。真っ直ぐ走ってるだけ。「とりあえず高速」っていう価値観を、一回見直してみては? って思うよ。
モリ:たしかに、スケジュールに追われてしまうことってあります。
マヒト:そうでしょ? だって、歳とったら学生とか若いころに比べたら時間に余裕はあるわけなんだからさ。ともすれば、家にいる奥さんからは「もう帰ってこなくていいのに」って思われてるかも知れん(笑)。だったらもっとツーリングの道中にも時間をかけて走って欲しい。もっと言うと、それでライダーひとりひとりが日本の魅力を発信するアンバサダーになって欲しいな。外国人に向けてじゃなく、日本人に向けて魅力を伝えて欲しい。「日本ってこんなに素敵な場所、人、食べ物がある、素敵な国なんだよ。私とあなたたちの国は最高なんだよ」って。
モリ:年齢を重ねて、変わっていくなかでもバイクライフを楽しんでいるのがマヒトさんらしいですね。
マヒト:そうね。変化するって楽しいよ。技術で言えば、電動モビリティの進化にも期待したいし。そうや! おじいちゃんになったら電動のトライクやな(笑)。あれでそのへん、走り回るよ。「おっそいけどな!」って言いながら(笑)。
荷物や同行者を載せたときのためにダブルシートやロングシートを好むマヒトさんが「イメージに近い」と話すのが、ロイヤルエンフィールドのクラシック350。「トコトコ走る感じもええのよ」
長くバイクを楽しむための方法
その1 技術をうまく使う!
近年目覚ましい進化を遂げている、バイクの電子制御サポートシステム。前車を追従するACCやクラッチの自動変速機構などの技術は「ライダーを助けてくれるものなんだから、積極的に頼ってしまうのも手。走行中に余裕が生まれるんだから、他のことに気を使うことができると思う」(マヒト)
その2 自分に合った道具を使う!
ライダー専用設計「バイカーズグラス」を手がける、川越の眼鏡店「カニヤ」で製造したメガネを愛用中のマヒトさん。「軽くて、遠くも近くも見えやすい。ヘルメットに合わせてフィット調整をしてくれたり、アフターケアもとても丁寧なんだよね。これからもお世話になります!(笑)」