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【Thinking Time 52】CNと電動バイクのいまを高校生が学び体感した

熊本県立矢部高校で、ホンダによる電動二輪車技術・安全運転講習会が開催された。2050年にカーボンニュートラルと交通事故死者ゼロを目指すホンダと生徒の移動課題を抱える山間地の教育現場に電動原付コミューターがもたらすものとは?

※BikeJIN vol.263 2025年1月号参照

10月15日、「熊本県立矢部高等学校×ホンダ 電動二輪車技術・安全運転 講習会 〜高校生と考えるカーボンニュートラルと電動モビリティ〜」が開催された。バイク通学と二輪車競技部で知られる矢部高校を舞台に、次代を担う高校生がカーボンニュートラル(CN)とモビリティの電動化について理解や関心を深めるきっかけとして、また身近な原付スクーターの電動化を知り、さらには実際に車両に触れることで、その良し悪しや課題、安全運転を学び、考える場として設けられたものだ。

二輪車競技部の長年の交通安全活動が国際交通安全学会から表彰を受けた
9月、公益財団法人国際交通安全学会(IATSS)から二輪車競技部の長年の交通安全活動に対して表彰が行われた。本イベントでは、IATSSの橋居賢治常務理事から副賞のEM1e:3台とNX400L教習車仕様1台が贈呈され、五所愛華部長が目録を受け取った。

免許を持たない生徒もCNと電動化を体験できた

矢部高校(熊本県山都町)は周囲を山に囲まれた環境で、昔から通学にバイクを必要とする生徒が多かったことから〝乗せて教える〞方針での交通安全教育を行い、そのための体制の一環として生徒が生徒に安全運転を教えられるよう二輪車競技部が創部され、現在も活発な活動を行っている。

一方で、この春には町内コミュニティバスが廃止され、スクールバスは維持されたものの登下校時の本数は少なく、生徒の日常生活は運行時間に影響を受けている。山間部の高校に通う生徒にとって原付スクーターはますます必要な生活の足となっているのだ。

その原付スクーターにいま、電動化の波が来ている。世界的なCN推進の動きは、高校生の生活の足にも変化をもたらすだろう。また、矢部高校には普通科の他に食農科学科と林業科学科があるが、その特殊性から他県からの越境入学も多い。彼らが将来携わるだろう農業や林業も地球環境に大きく影響を受ける産業だ。

本イベントの午前に行われた講義でも、地球温暖化による気候変動など環境への様々な影響と共に移動手段も変化していくこと、指標とされる二酸化炭素の排出量もLCA(ライフサイクルアセスメント)で考える必要があり、電動モビリティはその点において排出量が少ないことを学んだ。

また、バイクにおいては国内4メーカーの間で交換式バッテリーの規格標準化に合意がなされ、充電時間、航続距離、バッテリーの回収・リサイクルやコストといった課題の改善に向けて取り組んでいること、共通仕様バッテリーはバイクだけでなく小型の建設機械や軽バン車両などにも利用を広げていることも伝えられた。

こうした流れの中で開発された電動原付一種スクーターのホンダ「EM1 e:」を題材に、ガソリンエンジンと電動モーターの違い、EV車両の特徴や構造と仕組みについて基本的なことを学んだのち、午後には実際にEM1 e:に触れる、試乗できる機会としてEV体験&安全運転講習会が行われた。

免許を持っているグループはEM1 e:に試乗し、さらにはガソリン原付スクーターのタクトにも乗ることで、EV車とガソリン車の違いを体感、駆動ロスの少ないEV車ならではの発進時の注意点、交換式バッテリーを含めた車両の安全な取扱いなども教わった。

一方、免許を持っていないグループは、交換式バッテリーの脱着、EM1 e:にまたがってのアクセル体験、デモ走行によるガソリン車との違いを見学したのち、班ごとのグループワークに取り組んだ。EVの良し悪し、課題や要望等について意見を出し合って発表することで知識の共有を行いつつ理解を深めていた。

普段バイクに触れることのない生徒に対しても電動スクーターに触れてもらい、CNを身近に感じてもらえたことの意義は大きい。コミューターの電動化が教育現場で受け入れられ、高校生の移動課題の改善につながっていくことを切に願う次第だ。

本イベントは全校生徒と教員のほか保護者も来場可能な学校行事として開催された

二輪車競技部のこれまでとこれから

二輪車競技部は「乗せて指導」方針のもと学校教育として生徒らの安全運転の模範となる生徒を育てようという目的で1996年に創部された。通学生徒への指導や安全運転大会出場(全国優勝経験あり)といった活動をしてきたが、近年は地域の講習会でのインストラクター補助など新たな展開も見せている。

原付スクーターや400㏄クラスを使って練習する。運転技術を教えているのは指導員資格を持った同部OBだ
本イベントでは、安全装具の装着確認、コースマーシャル、免許なしグループでの車両操作補助等を行った

バイク通学と二輪車競技部で知られる熊本県立矢部高校

矢部高校は山々に囲まれた山都町(やまとちょう)にある唯一の県立高校だ。「自ら気づき考え行動する」という教育スローガンのもと原付免許取得とバイク通学が認められ“乗せて指導する”方針のもと二輪車競技部があることでも知られる。

矢部高校は、明治29年に開校した矢部実業補習学校から数えると129年目を迎えるという歴史ある県立高校だ
バイク置き場は自転車置き場より大きい。免許は2年生から取得でき、現在は2・3年生の52名がバイク通学をしている
山都町は昨年9月に国宝に指定されたばかりの石造りアーチ水路橋「通潤橋(つうじゅんきょう)」で知られる山間の町だ

CNとモビリティの電動化電動バイクの仕組みなどを講義

午前中は体育館で「カーボンニュートラル(CN)とモビリティの電動化」「電動バイクの構造と仕組み」についての講義が行われた。環境意識が高まるなかCNに向けた世界の流れとライフサイクルアセスメントなどの考え方、交換式バッテリー「モバイルパワーパックe:」を標準化した二輪業界の動き、電動バイクの基本3要素と車両の構造、開発テストの様子などを学んだ。

講師を務めたのは「EM1 e:」開発責任者の後藤香織さん(左)と開発責任者代行の内山 一さん(右)のお二人
EVシステムの作動原理を説明する際には、二輪車競技部の五所部長がステージ上でEM1 e:にまたがり実際に後輪を回した
矢部高校のある山都町や熊本県といった身近な自治体もCNやSDGsへの目標を持って取り組んでいる

全校生徒を対象にした講習会免許のない生徒にはグループワークも

午後からは会場をHSR九州/交通教育センターレインボー熊本に移してEV体験&安全運転講習会が行われた。免許のある生徒は、EM1 e: の試乗、ガソリン原付との比較試乗、コーナリングのポイントと法規、コース上の駐車車両を使っての出会い頭事故の危険予知学習なども行った。一方、免許のない生徒らも、交換式バッテリーの取り扱いとモーター駆動を体験。デモ走行によるガソリン車との加速・静粛性の違いも見学したのちグループワークを行い、EVの良いところや悪いところなどを挙げて発表した。

免許ありグループはHSR九州のドリームコースを使ってEM1 e: とタクトで比較試乗も行った

免許ありグループはコース内でガソリン原付との比較試乗も

緒方宏樹校長もEM1 e: に試乗。「30年ぶりに原付バイクに乗りましたけど静かで楽しいですね」

試乗直後にEM1 e: の感想を聞いた。「振動がなくて疲れないけど、ウインカー音は出してほしい」と指摘も

出会い頭事故の危険性を体験。合流時は3度に分けて進み、クルマに自分を認識させることが大事だ

免許なしグループもバッテリー交換やスロットル操作を体験

班ごとにグループワークを行い、EVの良い点と悪い点、注意点などを出し合って全員の前で発表した

後ろを向いた生徒にガソリン車とEV車で近づき、音が聞こえた時の距離の近さでEVの静粛性を体験

センタースタンドをかけ、競技部員がフロントを押さえた状態でスロットルをひねって静かな駆動を体験

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