なるほど!世界のバイク人「レトロバイクの復権エンフィールドの攻勢」
※BikeJIN vol.263 2025年1月号参照
ブリットとCBの350対決マーケットの反応はいかに
半年前のこのコラムの冒頭で「今から10年前にベテランライダーたちに中国製のバイクを買いたいかと聞いたら、彼らは大笑いしただろう」と書いた。今回のコラムも、書き出しはそれとなんとなく似ているかもしれない。
ホンダが、ロイヤルエンフィールドの人気に対抗するためのモデルを発売するというのは、10年前なら笑い話だっただろう。だが、それが来年、ホンダがイギリスでやろうとしていることなのだ。手ごろな金額で買えるエンフィールドのレトロバイクの成功が、すべてを覆してしまったのである。イギリスでのロイヤルエンフィールドの人気を最初に説明しておく必要がある。
イギリスのモーターサイクル産業協会が発表した、10月のベストセラーバイクの一覧を見てみよう。それによると、モペッドを除いたモーターサイクルの6つのカテゴリーのうちの3つまでもが、エンフィールドのバイクによって販売台数の1位を占められている。アドベンチャークラスはスクラム411、カスタムクラスはメテオ350、モダンクラシックはコンチネンタルGT650だ。さらに排気量別の販売台数でも、125〜500㏄と501〜750㏄の両方で、それぞれスクラム411とコンチネンタルGTが1位になっている。
一方ホンダは、ネイキッドクラスをCB125Fが制しているだけだ。ちなみに6つのカテゴリーの残りの2つのトップは、ロードスポーツクラスがドゥカティ・パニガーレV4、ツーリングクラスがBMW・R1250RTである。排気量別では50〜125㏄がヤマハN MAX 125、751〜1000㏄はトライアンフ・タイガー900GTプロ、1000㏄以上ではBMW・R1300GSがトップだった。
イギリスでこんなにエンフィールドが売れているとは、おそらく読者は想像していなかっただろう。総販売台数では、どのメーカーよりもモデルの種類が多いホンダがいぜんとしてトップだが、主要なカテゴリーを押さえているのはネイキッド部門だけで、しかもそのバイクが125㏄というのは情けない。これではホンダがフラストレーションを抱く以上に、心中穏やかではなくなるだろう。
2020年にインドでハイネスCB350という名前で発売され、翌年に日本に登場したGB350は、アジアやオーストラリアでも販売されているが、イギリスやヨーロッパでは売られていない。そこでホンダはこの春に、インドでエンフィールドのブリット350/HNTR350(日本名ハンター)と張り合っているCB350のラインナップを増やして市場を拡大することを計画したようで、ヒマラヤン410とスクラム411をターゲットにしたモデルのパテントを申請した。パテント用の図面を見ると、リアショックがツインショックである以外はヒマラヤンとよく似ている。
しかし、それから1カ月後にエンフィールドは新しい水冷451㏄の40hpエンジンを搭載するニューヒマラヤン450とゲリラ450を発売して少し上の市場に進んだために、ホンダの計画はどことなく置いてけぼりを食ったような格好になってしまった。今後この計画が実現するかどうかは分からないが、その代わりにホンダは、春に名前の商標を登録したGB350そのものをイギリス市場に持ち込み、11月初めのEICMA/ミラノショーで発表し、来年1月から2025年モデルとして販売することにした。
レトロ基調のエンフィールドに人気があるのは、どのモデルもA2ライセンスで乗れることと、価格が割安なことが大きな理由だ。このコラムでしばしば取り上げているように、A2ライセンスはイギリスやヨーロッパだけでなく世界の多くの国で採用されている運転免許区分で、簡単に言うとパワーが35kW(47hp)以下で、パワーウエイトレシオが0・2kW/㎏以下のバイクに乗れる免許だ。
A2バイクは非常に重要な市場なので、どのメーカーもこのクラスに向けたモデルを用意している。種類もスポーツバイクからアドベンチャー、レトロにいたるまで色とりどりだ。価格はホンダNX500の6799ポンドを筆頭に、4000ポンド以下まで幅広く分散している。ちなみにホンダの代表的なA2バイクのCBR500Rは6699ポンド、CB500Fは5849ポンドだ。
エンフィールドのバイクはこの価格帯の下方に位置している。もっとも安いのはブリット350の派生モデルのHNTR350の3899ポンド。円に換算すると約78万円だ。ということは、GB350はこれに対抗できる値段で売らなければならない。そして実際にGB350のイギリス国内価格は、3949ポンドに設定されている。
つまり、パワーが実質的に同じGB350とエンフィールドの350は、HNTRで比べれば価格も50ポンド(約1万円)しか違わない。スタイルも、よく見ると日本でもてはやされるほどクラシックではなくむしろコミューター的なGBと、ブリット350のモダンバージョン的なHNTRはいい勝負だ。装備もだいたい互角だが、ホンダにはトラクションコントロールやいくつかのエレクトロニクスギミックがついている。
こうして考えると、A2免許にステップアップして最初に買う大きいバイクがGBやエンフィールドだとしたら、いくつかの点で理想的といえないこともないかもしれない。もしかするとホンダは、いいところに目を付けたのだろうか。その答えは、冬が終わって暖かくなるころにイギリスの路上を走るGB350の数が教えてくれるだろう。