【Thinking Time 51】バイク事故の増加を受けた安全運転促進シンポジウムの内容とは
9月12日、バイクの安全運転に関わる業界関係者やメディアが集まって
日本二普協主催によるシンポジウム「二輪車の安全運転を考える」が開催された。
4人の講師陣による発表とディスカッションは今後の道筋を示した。
※BikeJIN vol.262 2024年12月号参照
9月12日、一般社団法人日本二輪車普及安全協会(以降、日本二普協)が第3回となるシンポジウム「二輪車の安全運転を考える」を開催した。バイク事故増のなか、二輪業界で安全運転施策に携わる者の多くが出席したシンポジウムの模様をお伝えしたい。
日本二輪車普及安全協会の活動とは? 安全運転から利用・流通環境、防犯まで
一般社団法人日本二輪車普及安全協会はビギナー向けのベーシックライディングレッスンや高校生への安全啓発活動、全国バイク駐車場案内、ジャパンライダーズ宣言等のマナーアップ活動、二輪車防犯登録などで知られている二輪業界団体だ。
講師陣の経験と知恵が議論に深みを増していく
コロナ禍以降、日本の各地でバイク乗車中の事故が増えている。昨年は3年ぶりに二輪車死亡事故が500人を超えてしまい、中でも20代前半と60代の事故が増えたことについて業界全体が危惧している状況だ。バイクライフのあらゆる場面での安全安心、便利で快適な利用環境をつくるために活動している日本二普協は、本シンポジウムの目的を「安全運転普及の訴求活動として、ライダーの安全・安心なバイクライフの実現を目指す」と定めている。
シンポジウムは2部構成となっており、第1部では講師陣がひとりずつテーマに沿った講演を行う。神奈川県警の小坂さんは県内交通事故死者の4割がバイク運転者という状況を踏まえ、様々な交通事故防止対策について発表。AI分析を活用した予測による事故防止と取締り、安全運転の啓発と周知のためのSNS活用術のほか、元白バイ隊員らしく、危険を早く察知して減速し、衝突時の速度を少しでも弱めることの重要性など具体的な運転操作も提起した。
バイク通学を長年指導してきた埼玉県立秩父農工科学高等学校教諭の今井さんは、生徒の安全運転のためには警察や交通安全協会など地域と連携することが大切であるとし、小学生の自転車教育から力を入れている秩父地域の取り組みや成果を紹介した。また知識や技能を学ぶ安全運転講習会に加え、ついついスピードを出してしまうなど若年層に見られがちな慢心を抑えるための〝心の教育〞や、万が一の事故に備えた胸部プロテクター装着推進の必要性など教育現場からの課題を提起した。さらには埼玉県や秩父市がカーボンニュートラルを宣言・推進するなか、バイク通学における電動バイクの有用性を示すなど次世代バイク通学のあり方についても展望を述べた。
スズキ二輪の社長を務める濱本さんは三ない運動の歴史と現状を踏まえつつ、若年層への交通安全教育の必要性を訴え、同世代の若年層に絞ったU30スズキセイフティスクールなどの取り組みを紹介。その一方で、コロナ禍以降増えている50〜60代の単独事故にも対応すべく実践的な安全運転を教えるスズキ北川ライディングスクールの実施・支援、さらには体力の低下に合わせて排気量を落とすなど、近年のリターンライダーの動向と心情に配慮したプライドを傷つけない商品構成、モノづくりについても説明した。
ウェア・用品メーカーの老舗、アールエスタイチで開発を担当している栗栖さんは、ヘルメットの装着義務化や胸部プロテクターの変遷と課題など国内二輪市場における安全装具の重要性と普及推進、そこにある課題と対策についてCPSマウントシステムなど自社の取り組みを挙げながら説明。装着が面倒、価格が高いなど胸部プロテクター普及阻害の要因について分析し、商品性能の向上だけでなく環境整備に取り組むことの必要性を説いた。
第2部のディスカッションでは胸部プロテクターの装着推進が議論の中心となった。第12世代バイクブームでユーザーとなった若年層、コロナ禍で戻ってきたリターン層、彼らに末永く楽しいバイクライフを送ってもらうためには安全運転意識・技能の向上について多面的に捉えることが大切だ。三ない運動やヘルメットの着用義務化など法律や規則で規制することだけが二輪市場の課題改善手法ではない。これまで以上に、議論の場に多くの関係者を招くことこそが本質的な課題解決につながるのではないはずだ。これまで以上に議論の場に多くの関係者を招き、縦割り施策に横ぐしを刺して連携の第一歩とすることが本質的な課題解決につながるのではないか。
安全運転の最前線で活躍する4名の講師陣
講演を行ったのは、神奈川県警察本部交通部交通総務課課長代理 小坂直人さん、埼玉県立秩父農工科学高等学校教諭 今井教夫さん、株式会社スズキ二輪代表取締役社長 濱本英信さん、株式会社アールエスタイチ企画部部長 栗栖慎太郎さん。安全運転施策に関わる4名だ
さまざまな取り組みや施策が発表・共有された第1部講演
小坂さんはAI分析による事故防止対策、今井さんはバイク通学の実情・取り組みと課題、濱本さんは若年・リターン層に向けた施策、栗栖さんはプロテクター普及への取り組み・課題などについて発表した
第2部パネルディスカッションでは課題改善へのアイデアも
第2部では4名の講師陣が互いに質問や提案を交わして知の共有を進め、理解を深めながら改善策などを見出すディスカッションが行われた。本シンポジウムの真価はこのプログラムにあると言ってもよい
二輪市場の変化に対応し施策の現状を見直すことで“改革”を進める日本二普協
2019年度を底に上向き、コロナ禍から密にならない趣味として需要の伸びを見せた国内市場では、ビギナー層(若年・リターン)の動きが良くも悪くも目立った(販売・事故増)。現状に迅速かつ柔軟に対応できるよう日本二普協では施策の見直しなどで改革が進む。
マスコットキャラクターが新登場!
安全教育への親しみやすい環境づくり、施策の認知向上とイベントへの参加促進などを目的に「ニーリン」(左)と「たぬゴー」(右)を起用する
胸部プロテクターの装着推進では具体案も提示
講師陣により行われたパネルディスカッションでは、胸部プロテクターの装着推進に関する議論で深みを増した。小坂さんは神奈川県内で多いバイク通勤死亡事故の対策として装着の必要性を挙げ、今井さんはバイク通学生徒が気軽に購入・装着できるようアカデミックパック設定の提案や装着法とデザインの改善を要望し、そのために必要と思われる行政支援策についても言及した。胸部プロテクターの装着が10年経っても進まないこと、装着率を上げるためには商品の性能向上だけでなく環境整備が必要なことを発表していた栗栖さんは、今井さんの提案を前向きに受け止め、まずは話し合いの場づくりが必要であることを示した。