【Thinking Time㊾】首都圏の中山間地にも移動課題 バイク通学を行う津久井高校に聞く
いまや三ない運動を展開する自治体は少数派だが高校生の通学やアルバイト等で使われる
生活の足としてバイクはまだまだ認められていない
バイク通学を行う神奈川県立津久井高校に聞いた
BikeJIN vol.260 2024年10月号参照
神奈川県では高校生が自由に免許を取ってバイクに乗れるが、県内全日制公立高校で唯一バイク通学を許可しているのが県立津久井(つくい)高校だ。その背景と理由、安全運転への取組みや課題について熊坂和也校長と舟久保健人教諭(現在は他校に異動)に伺った。(※以降、敬称略)
現在、全国的な三ない運動は行われていないが地域の慣習や各校の校則に残っているケースは少なくない。少子化のなか学区・学校の統廃合が進み、通学距離が延びたり利用する公共交通機関が増えるなどして時間的、金銭的な負担が増し、高校生の移動課題は年々深刻なものとなっている。写真は津久井高校の周辺道路。
多くの生徒はバス通学年間20万円ということも
着任7年目の熊坂校長はご自身がスーパーカブで通勤するときもあり、生徒の通学事情やバイクの点検・メンテナンスにも詳しい。バイク通学担当の舟久保先生は硬式野球部の顧問をされている(現在は他校へ異動)
── バイク通学を許可した背景について。
熊坂:私が本校に着任した7年前には生徒や保護者からの要望が常に出ていました。多くの生徒はバス通学をしていますが、橋本駅からのバス代が片道520円、往復で1日1040円、定期代が年間15〜20万円かかります。昔は複数の県立高校でスクールバスを回してくれていましたが、今はありません。
保護者の方からは「原付バイクは買う時に少しお金がかかるけど、ガソリン代のほうがバス代よりはかなり安い」といった具体的な話も聞いていました。通学事情について言われることも多くてプレッシャーに感じていたのですが、着任3年目に職員からの発案で「思い切って全日制でのバイク通学を始めてみては」という投げかけもあり、通学の便の改善のために「バイク通学をしてみよう」というのが一番ではないかと考えました。
── 保護者やPTAなど、直接生徒に関わる方の反応について。
舟久保:クレームなどはまったくありませんでした。バイク通学を認める最後の段階で許可式というのがあり、保護者にもバイク通学のルールを理解していただくのですが「これはこうじゃない?」といった意見はほとんどありませんでした。親御さんとしても危険性や利便性を考えたうえでお子さんのバイク通学を望んでいる方が多いと感じました。
── バイク通学の手続きと許可条件について。
舟久保:説明会に参加した生徒で条件を満たしていればバイク通学の申請ができます。説明会は1年間に3回行います。第1回は夏休みの前に行い、夏休み明けにバイク通学の許可願い、誓約書、免許証の写し、自賠責保険証と任意保険証の写しといった書類を提出してもらいます。年度明けにも提出してもらうことで再度の確認をしています。1年生だと早くて夏休み明けからバイク通学ができます。
── バイク通学をする生徒の通学距離について。
舟久保:淵野辺や矢部(共に中央区)、小渕(緑区)から通っている生徒は15〜16㎞です。上り下りのある激しいルートです。
── バイク通学生徒への講習内容について。
舟久保:まず、説明会の後に行う座学講習会があります。22年度までは我々が行っていましたが、23年度からは神奈川県二輪車普及安全協会に来て頂いて講演を30分ほど、また生徒に通学用バイクに乗ってきてもらい各部の点検をしながら注意点について30分ほど、計1時間ほどの講習をお願いしています。
安全運転実技講習については年に一度、12月半ばに橋本(緑区)の自動車教習所で、地元警察署のご協力をいただいて2時間ほどの実技講習を実施しています。バイク通学をしている生徒は全員自分のバイクで来場して受講します。また2カ月に一度、職員が車両点検を実施します。
熊坂:点検は2カ月に一度ですが、バイク置き場が校長室の目の前なのでよく覗いて回り「ここを直して」ということはこまめに言います。バイク通学は命に関わることなので、車両の状態やバイク通学生徒の学校生活はできるだけ見て声を掛けるようにしています。私自身がバイクに乗るので、走行中にヒヤッとした場面があったらバイク通学の生徒を集めてもらい「昨日こんなことがあったから皆も気を付けて」ということは随分言ってきました。
── 通学手段と事故のリスクについて。
熊坂:通学手段の徒歩、バス、自転車、バイクに優先順位をつけることはありません。全ての通学手段がフラットですから。生徒の住んでいる場所や交通状況によって自転車をやめてバイクにするというのもありなんです。 リスクについて繰り返し言っているのは「今朝まで事故もなく無事に来られたから帰りも事故に遭わない保証はないんだよ」ということです。これはかなり口を酸っぱくして言っています。私自身、ダンプが落とした砂利にハンドルを取られて思わずブレーキをぎゅっとかけて滑って転んだという話も繰り返ししています。生徒も「それ聞いた聞いた」って言うくらい。
── バイク通学に関する今後の動きや展開について。
舟久保:バイク通学を始めた当初は割と内々でやっていたのが、座学・実技講習会などで外部と連携できるようになってきているので、そこはさらに拡充できたらなとは思います。形になってきているので、場合によっては通学条件の居住地に関するところをもう少し緩和してもいいかもしれません。例えば、いまは緑区外(学校は緑区内)に住んでいる生徒に限定していますが、緑区内に住んでいるけどちょっと登校しにくい生徒も許可対象とするなどです。
熊坂:もちろんバイクを駐めるスペースの問題もありますけどね。
小学校
自他の生命の大切さと交通事故の怖さを知り、他人を思いやる優しさとマナー、ルールを守って行動できるようになる。歩行者および自転車の運転者として必要な実践的な知識と技能を習得する。安全に通行するために道路交通における危険を予測し回避する意識・能力を身につける。
中学校
生命の尊さと交通事故の責任、交通ルールとマナーの重要性を認識してこれを遵守するとともに、思いやりを持ち自己の安全だけでなく他人の安全にも配慮した行動が取れるようになる。自転車での安全な道路通行に必要な科学的知識と技能を習得し、危険を予測し回避する意識・能力の定着を図る。
高等学校
生命の尊さと交通事故の責任、交通ルールとマナーの重要性を自覚して遵守し、交通社会の一員として思いやりと責任ある行動が常に取れるようになる。自転車・二輪車等の運転者として必要な総合的知識と技能を習得し、道路交通における危険を予知、これを回避する意識・能力を高める。
三ない運動から生涯にわたる
交通安全教育へ「スタートかながわ」を
展開する神奈川県神奈川県では1978年に高校生の二輪車事故増に対して「4+1ない運動」を推進、一時減少するも再び増加したため運動を見直し「かながわ新運動」へ。三ない運動をやめる高校も増え、2009年からは発展形の「スタートかながわ」へと移行した
⇩
【めざす姿】
- 社会的責任の自覚
- 交通事故の防止に向けた主体的な考えと行動
- 事故を未然に防ぐための知識
- 技能
交通社会の一員として「くるま社会」を生きる力の育成