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【Thinking Time】㊹高校生には電動スクーターが最適解! その理由とは?

埼玉県立秩父農工科学高等学校で交換式バッテリー採用の
電動原付スクーターを題材にカーボンニュートラルや
電動バイクの構造・仕組みに関する授業、試乗会が行われた
その模様をお伝えし、実施の背景について考える

BikeJIN2024年5月号 Vol.255掲載

3月5日、埼玉県の県立高校でカーボンニュートラル(以降CN)と電動バイクに関する授業、試乗講習会が行われた。本イベントに関わらせて頂いた立場から、その背景や目的について説明したい。

まずは背景から。ここ数年、自動車業界や各自治体が2050年カーボンニュートラルの実現(政府目標)に関する宣言を行ってきた。化石燃料の消費を抑えて再生可能エネルギーの割合を増やし、ライフサイクルアセスメントに則ってエネルギーを作り、貯め、使い、処理(リサイクル)するところまでの過程で脱炭素化を目指している。

移動困難者の貴重な生活の足となる電動原付スクーターの潜在市場
来年11月の原付への排ガス規制適用に備え、最高出力を制限した新基準原付も検討されているが、電動原付スクーターの潜在市場は今後も大きくなるだろう。中山間地ではガソリンスタンドの維持ができない、統廃合による通学距離の延長で校区の学校に通えないといった問題がすでにあらわになっている。

電動サイクルを含む特定原付と新基準原付では移動課題をカバーしきれない
昨年7月施行の特定原付は免許不要のラストワンマイルモビリティとして有望だ。新基準原付も原付一種の代替モビリティとして同様。ただしこれらのモビリティがこれまで原付一種が担ってきたニーズのすべてを賄えるわけではない

新基準原付の課題は車格。シート高や車重など高齢者に寄り添う必要がある
特定原付では電動サイクルに期待。自転車とバイクをつなぐ存在となるだろう

身近なところから取り組み高校生のQOLを改善する

こうした取り組みは一朝一夕で実現するものではないが、作る側、使う側、それぞれにおいて脱炭素化のマインドを高めていくためにも身近なことから始めていく、周知できるように取り組んでいくことが求められる。今回のイベントも、次代の脱炭素社会を担う高校生が学び、体験し、自らCNについて考えるきっかけとなることを目標としている。

なぜ、高校生なのかと言えば、電動バイク、とりわけ16歳で取得可能な原付免許で乗れる電動原付スクーターが、カーボンニュートラルを含め、様々な社会課題を改善する可能性を秘めているからだ。高校生が抱えている社会課題も駐輪問題などと同じように都市部と地方では課題の捉え方が大きく異なるが、ここでは地方、中でも中山間地についてイメージしてほしい。

①公共交通の衰退と値上げ
電車やバスがない、あっても1日に数本。運賃の値上げが定期代を高額とし家計の重い負担となる。
②2024年問題
労働基準法改正によりバス運行便の減少や運転手不足が加速し、高校生の時間管理を圧迫する。
③統廃合と通学距離の延長
学校の統廃合により通学距離が延び通学困難に。越境入学が増え、保護者の送迎負担も増える。
④三ない運動による規制
モビリティが本来改善できる移動の恩恵を三ない運動の影響により高校生は享受できない。本来は16歳になった時点で誰でも原付免許が取れる。原付バイクがあれば山の向こうからでも通学でき、高校生のQOL(※)を可能な限り支えることができる。

こうした移動に関する社会課題はすでに中山間地の高校生を直撃している。家計や家庭の負担が大きいこれらの問題はもっと声高に叫ばれるべきだが、三ない運動の浸透した学校現場と地域からは高校生にモビリティの自由を与えることを許さない。

カーボンニュートラルとモビリティ革命による原付バイクの電動化は、これらの課題を今すぐにでも改善できる。バイク通学を許可する際の通学距離の基準は学校から片道10㎞以上というところが多い。既存の電動原付バイクなら片道15㎞くらいまでなら不安なく往復できるだろう。昨年登場した16歳以上免許不要の特定原付や今後登場が予定されている新基準原付も高校生や高齢者といった移動困難者の生活をサポートしてくれるだろう。

交換式バッテリーのいまと今後異業種・業態の参入増がカギになる
電動スクーターは国内二輪4社で仕様を統一し国際標準化までを見越した交換式バッテリー(モバイルパワーパック ※MPP)を採用したものと固定式バッテリーを採用したものが並行販売されるだろう。MPPは単1・単2など乾電池のように普及すべきであり、蓄電池などの家電や多様なモビリティで利用が進むことが必要で異業種・業態による活用が普及のカギだ。
スズキの実証実験車両「e-BURGMAN」はGachaco交換式バッテリー(MPP)を2本搭載する原付二種だ
ジャパンモビリティショーで展示されたヤマハ「E02+」。欧州仕様車「NEO’S(ネオス)」がMPPに対応?
MPPを2本搭載する原付二種のコンセプトモデル、ホンダ「SCe: Concept」は近々登場予定の噂もある

もし本当にモビリティの自由というものが解放されたなら、学校から3㎞先に住んでいる16歳の高校生が特定原付で通学してもいいし、免許を返納した高齢者がデマンドタクシーに頼らずにバス停まで自走していくのもいい。新基準原付も原付バイクと同じように通学許可車両として認めてくれる高校も出てくるかもしれない。そういうモビリティ革命後の社会を目指すにあたり、カーボンニュートラルを推進しているのならば、身近な乗り物として走行中の脱炭素化が実現できる電動スクーターは高校生の通学モビリティとして最適ではないだろうか。

試乗車両はMPPを採用する唯一の一般向けスクーター、ホンダ「EM1 e:」。満充電での航続距離は約53㎞(30㎞/h定地走行テスト値)、シート高は740㎜、車重は92㎏

「高校生と考えるカーボンニュートラルと電動モビリティ」 が開催!

三ない運動を撤廃して交通安全教育に取り組んでいる埼玉県。バイク通学が認められている秩父地域の県立高校において「高校生と考えるカーボンニュートラルと電動モビリティ」と題した講義、電動バイクの試乗・安全運転講習会が開催された。埼玉県と秩父市はともにカーボンニュートラル宣言自治体であり、モビリティの脱炭素化は取り組むべき課題だ。電動スクーターには価格が高いといったデメリットもあるが、CN下における中山間地でのパーソナルモビリティとしての期待は今後も増していくだろう。次代を担う高校生が厳しさを増す通学・移動環境のなか脱炭素化や安心安全とともにモビリティについて考える良い機会となった。

講義は電気システム科と機械システム科の2 年生76 名に対して工業部の授業として行われた。講師はEM1 e:開発責任者(LPL)の後藤香織さんとLPL代行の内山 一(はじめ)さんが務め、カーボンニュートラルの世界的な流れや電動バイクの構造と仕組みについて学んだ
試乗・安全運転講習会は生徒指導部による行事として学校内の敷地で行われ、所属学科を問わず1、2年生の男女が参加。電動ならではの注意点も教わる
埼玉県警察による安全運転講話も行われ、ヘルメットのあごひもをしっかり締めること、プロテクターの重要性などを説明しエアバッグ展開体験も実演
日時3月5日(火) 10:35〜15:00
場所埼玉県立秩父農工科学高等学校
講義① カーボンニュートラルとモビリティの電動化
② 電動バイクの構造としくみ
試乗会交換式バッテリー採用
原付一種スクーター ※ホンダ EM1 e:
ライフデザイン科1年/小池さん
原付免許を取得して今後はバイク通学も考えているけどバイクに乗るのは今回が初めてという小池さん。「乗りやすかったし足着きも良かったけど価格が高いかな」
電気システム科2年/斎藤さん
グロムなど3台のバイクを所有する斎藤さん。「電動バイクは初めて乗ったけどアイドリングに振動がなくて驚きました。発進時もスムーズなパワーで良かったです」

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