【Thinking Time】㊸アナタは見逃している!? 深読み!ジャパンモビリティショー
盛況のうちに幕を閉じたジャパンモビリティショーだが、展示物の多さに圧倒され
目の前の展示物が何を伝えようとしているのかが分かりにくいことも多い
そこで、二輪各社を中心に注目展示物のポイントと訴求点を振り返る
各社、何が重要だと考えているのか?
東京モーターショーはジャパンモビリティショー(以降JMS)となった。オールジャパン、オールインダストリーでモビリティ革命に挑んでいくための催しだ。今回は二輪各社の展示に注目しながら、業界の取組み、伝えたいポイントなどについて説明する。
脱炭素化と事故ゼロへ。二輪各社展示の背景を読む
二輪に限って見ても、全体の潮流はカーボンニュートラルに向けたモビリティの脱炭素化であり環境負荷軽減への取組みだ。JMSはモーターサイクルショーのような足元の製品や技術を展示する場ではなく、中長期的な取組みや技術を紹介する場だから、そこに展示されているモノを見て「なぜ?」と思うことも多い。
二輪車のCO2排出量は国内運輸部門ではわずか0.4%、日本全体では0.07%に過ぎない(21年度)。それでも規制値が厳しくなったEURO5相当の国内4次排ガス規制に対応するため、HC排出への対応手段として新基準原付の設定(※125ccクラスの最高出力を制限して原付一種として運用させる案)なんて話も動いている。世界の潮流の中で、走行中のゼロエミッションを実現するために電動化やバイオ・合成燃料、水素エンジンまでが研究を進めているのだ。
こうした背景をある程度知ってから見れば納得もしやすいが、いきなりブースに立ち寄ってもそうした背景まではPOPで説明されておらず、かといって概要を伝えるための動画やステージ演出に長々と足を止めているわけにもいかないのでメーカーとしても見せ方、伝え方には苦慮していることだろう。
二輪業界としては自工会を中心としたバイクラブフォーラムメンバーにより設定された「2050年カーボンニュートラル(政府目標)達成への貢献」と「2050年事故死者数ゼロを目指す」という2つの大きな目標がある。詳しくはロードマップ2030をご覧頂きたいが、この2つの目標を知っているだけでもJMSの展示物がすっきり見えてくる。
[YAMAHA] モトロイドのバランス制御技術がコミューターにも反映
もっとも包括的に展示されていたのはヤマハ発動機ブースだろう。画像認識AIやセンシングによる知能化技術、ライダーの操作を必要とせずに自立・走行するバランス制御技術「AMCES(アムセス)」など先端技術満載のモトロイド2のほか、小型スクーターに搭載されて実装が現実味を帯びてきた二輪車安定化支援システム「AMSAS(アムサス)」といった展示は事故死者ゼロの目標に大きく貢献できる。
また、電動バイクや水素エンジン搭載車両などカーボンニュートラルに向けた試験・研究車両も多数展示されていた。それでいて、ステージでは電動トライアルバイクが走り回り、モトロイド2が演者と踊り、初音ミクがMCを務めるなど派手な演出でバイクに興味のない人(ノンユーザー)の気を引くのも見事だった。
[Honda] コミューターの近未来を担う、Hondaモバイルパワーパック
ホンダの場合は環境負荷ゼロと交通事故死者ゼロが両翼になるが、今回は前者の展示が目立った。国内バイクメーカー4社によって交換式バッテリーの統一仕様として採用されているHondaモバイルパワーパックe:。コミュータークラスの電動化の核として普及拡大が期待されているが対応車両はまだまだこれから。今回のショーではホンダ、スズキ、ヤマハが対応モデル(電動スクーター)を展示していたが、実証実験中の交換バッテリーシェアサービスのGachaco(ガチャコ)は展示されず残念。
[カワサキ] 原付二種クラスのEVスポーツとストロングハイブリッドスポーツ
原付二種クラスのEVスポーツ!脱着可能のバッテリーを採用
最高出力9kW(12ps)の電動スポーツで区分は原付二種。登り坂などで出力を上げられるe-Boostや駐輪時の取り回しなど極低速時に役立つWALKモード、ダミータンク上の小物入れなど電動ならではの機能も搭載する。バッテリーは取り外し可能で家庭用100Vコンセントから充電でき、1回の航続距離は72㎞を実現した。
まさにバイクの“プリウス”が登場!ストロングハイブリッドを初搭載!
量産二輪車世界初のストロングハイブリッドを採用し、クルマのプリウス同様にモーターのみの走行も可能なハイブリッドスポーツ。エリミネーター500の451cc水冷並列2気筒エンジンをベースにトラクションモーターと駆動用バッテリーを搭載し、6速ボタンシフトミッション機構やe-Boost 機構などを採用する
内燃機関の強みを活かせるのが水素の魅力
カーボンニュートラルへの脱炭素技術というだけでなく無尽蔵に製造可能な水素を燃料とした内燃機関の開発は、資源のない国日本のモビリティ産業を安定化させるためにも必要だ。水素は従来のガソリン、ディーゼル燃料、プロパン、天然ガスの代わりとして日本の強みである内燃機関で使える燃料であり大小様々なモビリティへの活用が期待されている。しかしバイクの場合は四輪より厳しい圧縮水素二輪自動車に関する国連基準(UNR146)や四輪用充填ガンがバイクには使えないなど課題を抱えている。開発を進めるためにも法改正やインフラ整備が必要とされている。
HySE-X1
ヤマハ 研究用スクーター(水素エンジン搭載)
ヤマハは、5月に設立された水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE(ハイス)」に供試される試験研究用車両を展示した。台湾ヤマハのスクーターであるBW’S125をベースに水素エンジンを搭載し、シート後部には大型の水素タンクを設置している。
スズキ 水素エンジンバーグマン(試験車両)
スズキは、水素エンジンの試験車両を展示した。バーグマン400ABSがベースで、エンジン自体はガソリンのものと基本変わらないが水素タンクを搭載したことによりエンジンより後ろが200㎜後方にずらされている。会場では走行動画も公開された。
バイク業界はマイノリティ!協調領域の展示の増加を望む
キッザニアやトミカコーナーといった子供向けの施策も定番となり、家族連れやノンユーザーも多く訪れるJMSだからこそ、マイノリティであるバイク業界が環境問題や安全運転に取り組んでいることはこの場でもっとアピールすべきだろう。
そういった点では、コミューターの電動化、ひいては交換式バッテリーの標準化を進めるためのモバイルパワーパックに関する展示が製造元のホンダブースにしかなかったこと、実証中のバッテリーシェアサービスであるガチャコの展示がなかったことは残念だった。次回は電動サイクルなど特定原付も含めた小さなモビリティに注目が集まるはず。二輪業界による協調領域の明確な展示に期待したい。