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なるほど!世界のバイク人「水素はバイクの未来か?実用に向けた進化をたどる」

2000年のアプリリアのアイディアから23年
環境への配慮の字とつとして研究が進み
スズキは実用レベルの車両を地道に改良中
水素エンジンは我々ライダーには魅力的に映る

水素エンジンの未来が具体的に見えてきた

 近未来の選択肢シリーズの最後は水素だ。読者もご存じのように、10月末のジャパンモビリティショーで複数のメーカーが、水素を燃料とする内燃機関を搭載した二輪車のプロトタイプ/開発モデルを展示した。中でもスズキが発表したビッグスクーターのバーグマン400ハイドロジェンは、世界的にも注目されている。というのもこれは、これまで燃料電池の二輪車の開発で世界をリードしていたスズキによる、水素のもう一つの使い道である内燃機関という提案だからだ。

 バイクやクルマのパワーソースとして水素を使うには、燃料電池(フュエルセル)で発電した電気でモーターを回すFCVと、内燃機関で直接燃焼させる二つの方法がある。だが、最初に考えなければならないのは、水素をどうやって作るかだ。これまで水素は、化石燃料を原料にして比較的安価に製造されてきたが、これだと製造工程でCO2が生成される。このCO2を大気に放出したものをグレー水素、回収して貯めるなどしたものをブルー水素と呼んでいる。

 一方、水素と酸素の化合物である水を電気分解して水素を取り出すと、CO2はまったく発生しない。この方法で製造した水素をグリーン水素という。本当の意味でのゼロカーボンには、このグリーン水素が必要であり、EUはこのグリーン水素の普及を政策にしているが、現段階では電気分解による製造はコストが高い。また、電気分解に使う電力も再生可能エネルギーで発電したものでないと、本当のゼロカーボンにはならない。

 水素をバイクの動力源に使うアイディアの最初は、2000年のボローニャショーでアプリリアが発表したフュエルセルのコンセプトスクーターだった。日本のメーカーでは、スズキがイギリスのインテリジェントエナジー社の燃料電池を使って2007年の東京モーターショーで発表した、コンセプトバイクのクロスケージが最初である。そしてスズキは、2017年に燃料電池を搭載した複数のバーグマンをセミプロダクションベースで作り、イギリスのロンドン警視庁が1年半にわたってこれらを試験運用した。

ヨーロッパでは水素を燃料にする乗用車やバスがすでに走っていて、ドイツとその周辺国に35MPaと70MPaの公共水素スタンドが200カ所ほどある。次世代自動車振興センターによると、日本では営業車の一部が水素を使っていて国内に164カ所の水素ステーションがあるそうだ

 水素の燃料電池の原理は水の電気分解の逆反応だ。その構造はバッテリーと似ていて、アノード(陰極)とカソード(陽極)が電解質で隔てられている。水素が陰極の白金に触れると、触媒作用によって陽子(水素イオン)と電子に分かれる。水素イオンは電解質のイオン交換膜を通って陽極へ、電子は外側の回路を通って陽極へ移動して、電流が発生する。陽極では、空気中の酸素が別の触媒に触れて、陰極から来た陽子と電子とで酸化還元反応を起こし、水が生成されて排出される。これが燃料電池の1ユニットで、実際にはこのユニットをいくつか重ねて使う。

 この先はBEV(バッテリー式電動車)と同じように電動モーターの出番だが、同じ電動車でも水素の補充にはガソリンの給油並みの時間しかかからない。これがバッテリーの充電に長い時間がかかるBEV(バッテリー式電動車)との大きな違いであり利点だ。しかし燃料電池には高純度の水素が必要で、さもないと触媒に大きな(高額な)ダメージが起きる。

 一方、水素を燃やす内燃機関には、燃料と空気を直接的に熱と運動に転換する熱機関のメリットがある。エンジンは基本的に普通の4トロークエンジンと同じものが使えるが、しかし水素はエネルギー密度がガソリンのほぼ3倍なので、燃焼には大量の空気が必要だ。空気と燃料の混合比は、ガソリンエンジンだと14.7対1だが、水素エンジンでは34対1で、レシオが高いほどクリーンな完全燃焼に貢献する。最大レシオは180対1だ。そこで過給機を使ってシリンダーに圧縮空気を詰め込み、吸入バルブが閉じた後にダイレクトインジェクションで水素をシリンダー内に噴射することになる。また燃料電池と違って、水素の純度が比較的低くても問題は起きない。

 しかし、エネルギーをパワーに転換する効率は燃料電池よりも悪く、燃料電池の60%に対して45%ほどにとどまっている。また、燃焼で空気中の窒素と反応すると、有害汚染物質のNOXをいくらか排出する。さらに水素自体はカーボンニュートラルだが、エンジンの潤滑に必要なオイルがわずかだが燃えるのは避けられず、その結果CO2が発生する。

 水素エンジンでは、とくにバイクの場合、燃料の搭載に課題がある。普通のバイクのタンクにガソリンが15L入るとしたら、その重さは約11㎏だ。したがって、水素エンジンでそのバイクと同程度のパワーと航続距離を得るには、ガソリンの約3倍のエネルギー密度の水素が3.9㎏ほど必要になる。

 だが、1気圧での3.9㎏の水素の体積はドラム缶220本分に相当する。だから水素はできるだけ圧縮してタンクに充てんしなければならないが、そのためには耐圧が約15MPa(メガパスカル)の普通の高圧ボンベでは不足だ。そこで現在の水素エンジン車では70MPaの高圧タンクが使われており、バーグマンも同じ規格のタンクを搭載している。平均的なタイヤ空気圧が250kPaだとすると、70MPaはその280倍だ。それに耐える強度と、満足できる航続距離を可能にする大きさのタンクを、パッケージングに制約のある二輪車に載せるには、今のところバーグマンのようなビッグスクーターが有効な答えのようだ。

 水素というと、人類にはヒンデンブルク号の大惨事の記憶があるので、これをバイクやクルマのような身近な乗り物に使うことに抵抗を感じる人もいるかもしれない。しかし実際の危険性はガソリンと大差がないらしいことを考えると、未来の選択の多様性という点で魅力的だ。

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