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From My Playlist(Track2)

日本の音楽シーンが大きな盛り上がりを見せ、バイクは自由や反抗のシンボルとして輝いた
さまざまなアーティストが作品の中でバイクを扱い数多くの楽曲がライダーの心を揺さぶった
編集ナカジマのプレイリストから思い出の曲を紹介

「どんなリムジンより あなたの錆びたバイクがいいわ」

 1981年に「ドア越しのGOOD SONG」でデビューした当山ひとみ。ニックネームはペニー。確か、ちっちゃくて、日に焼けた肌だったので1セント硬貨になぞられてそう呼ばれたと聞いた覚えがある。

 渋谷の柱が邪魔なライブハウス「エッグマン」での定例ライブから人気となりFMでDJなども務めた。音楽性は最近世界的に見直されている日本の「シティポップ」的女性ボーカルだ。

80年代の録音はリズムセクションなども打ち込みではなく、さまざまな楽器の音を大切にしたものだ。

 今回紹介するのは85年のアルバム「ヒューマンヴォイス」に収録されていた「べルベットモーニング」だ。

 彼女が海辺の安いモーテルのベッドで目覚めて、波の音と彼の胸の鼓動を聞きながらまどろんでいるときに、思いを巡らせたほんの一瞬のことを歌っている。

 彼の夢を応援して一緒にいることが幸せだった彼女。高級なシャンペンよりも一緒に飲んだコーラリムジンより彼の錆びたバイクがいいという。

 でも、夢はいつしか消えていくことに気づかなかったと思う。彼が「来年の今頃は……」とつぶやきそのあとは聞こえなかったけど、未来が思い描いていたのとは違うことになる、夢が消えていくことを予感したのだ。そして彼をただ強く抱きしめていた。

 ベルベットのように優しい朝と、ちょっぴりもの悲しい心情が3分56秒の中に見事に描かれている。 ここに登場するバイクは錆びているので、鉄の部品が多く使われている少し古い型だ。

 85年の作品なので70年から75年くらいに生産されたモデルをイメージした。73~ 75年に作られたカワサキのZ2はドンピシャだ。85年ころは今のようなプレミアバイクではなく、普通の中古車だったので新車の400より手に入れやすかったはずだ。

 79年のヤマハXT500もいい。気取らないオフロードバイクは海辺に似合う。ということで今回の曲中バイクはこの2台を推したい。

 4月は別れと出会いの季節。夢が始まる人もいれば終わりにする人もいる。皆さんは、バイクがかかわる春の思い出をお持ちだろうか? その時、どんな音楽が鳴っていたでしょうか。

今年も新たな1ページを加えていただけるよう祈りたい。

YAMAHA XT500(1976)

ヤマハ発動機初の4ストローク単気筒500㏄エンジンを搭載したオフロードバイク。第1回パリ・ダカールラリーの優勝により欧米で人気を博した。タフなアドベンチャーバイクだ

BikeJIN2022年1月号(Vol.227)掲載

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