【KAWASAKI・GPz750R】愛車と共に積み重ねた46万キロの軌跡
同じバイクに乗り続けるというのは、想像以上にタフな行為だ。今回お話をうかがった田中吾希人さんは36年間カワサキGPz750Rに乗り続け、今なお年間1万キロ近く走る長年同じバイクに乗り続けてきた思い、付き合い方を語ってもらった
スペックでは表せない走りの“密度”と“充足感”
1台の愛車に生涯乗り続ける。多くのライダーが憧れるバイクとの理想の付き合い方の一つだが、やり遂げることは想像以上に難しい。維持費やパーツ供給の問題、そして新モデルの誘惑など、様々な理由で途中で乗り換える人がほとんどだ。田中吾希人さんは、19歳の頃に購入したgpz750rで総走行距離約46万キロという途方もない記録を打ち立て、今もなお乗り続ける、現在進行形でライダーの理想を体現する一人だ。
「大学1年の頃に限定解除で大型免許を取得しまして、gpz750rが初めての大型バイクです。当時は通学やバイト先への通勤、週末はツーリングと、常にバイクと一緒でした。年間で3〜4万キロは乗ってましたね」
まさにgpz750rと共に青春時代を過ごした田中さんだが、当時は空前のバイクブーム。毎月のように新モデルが発表され、各メーカーがスペック競争に躍起になっていた時代だ。次々と登場する高性能マシンに心移りはしなかったのだろうか。
「それについてはクラブの影響が大きいです。1989年に雑誌のメンバー募集を通じて、今も所属するランブルフィッシュというツーリングクラブに入ったんですが、そこのメンバーがz750fxなど古いバイクで元気に走っている人が多くて、それがかっこいいな、と。古いバイクをいじって最新モデルと戦えるように仕上げるのが楽しかったというのもあります」
そうしてエンジンを中心に様々なカスタムを施した愛車とは、ツーリングや草レースなど多くの時間を共に過ごしてきた。ツーリングではチームで行った北海道ツーリングなどのほか、ソロでも全国各地を走り、長崎と宮崎、鹿児島を除く44都道府県を制覇したという。
年齢を重ね、経済面で余裕が出てくると、田中さんはサブバイクとして様々なバイクを乗り継いできた。それでもやはりメインバイクは19歳から乗り続けてきたgpz750rであり、それはこれからも変わらないと語る。
「例えばa地点からb地点へ移動するとして、原付でもリッターバイクでも、移動するという目的は達成できますよね。じゃあ何が違うかというと、僕にとっては移動する間の密度なんです。gpz750rより速かったり、乗っていて楽なバイクはいくらでもありますが、移動中の密度の濃さ、走り終わっての充足感はgpz750rがいまだに一番ですね」
その感情を愛着という一言で済ませてしまうのはいささか陳腐だが、そういったスペックには表れない部分があるからこそ、1台のバイクに長く乗り続けることができるのだろう。
もちろん気持ちだけでなく、長く乗り続けるには信頼あるショップの存在が不可欠。田中さんの場合、acサンクチュアリーがそれだ。ランブルフィッシュで知り合った中村さんが社長を務めるショップで、オープンから30年以上の付き合いという、田中さんのバイクライフに欠かせない存在だ。
「長く一つのショップに通っていると整備記録が蓄積していって、愛車の状態を深く理解してくれますし、時に的確な指摘をくれるのもメリットですね。良いショップが見つからないという方は、乗っているバイクのオーナーズクラブに入ることも一つの方法かな。長く同じ車種に乗っている人はその車種に強いお店を知っていますから、そういうところで情報を集めるのもオススメです」
最後に愛車と共に走った46万キロという記録について聞いてみた。
「よく46万キロってすごいと言われますが、自分では距離を意識したことはないし、特別な感情もないんです。気づいたら46万キロ走ってました、みたいな。さすがに50万キロになったら少しは感動するかもしれませんね(笑)」
過剰な気負いもなく、明確な目標もなく、46万キロはあくまで結果だと語る田中さん。長く乗り続ける一番の秘訣は、愛車との日々を日常と捉える、フラットな心構えなのかもしれない。
田中吾希人さん(55)
会社員
1988年の購入以来、現在もGPz750Rに乗り続けている田中さん。総走行距離は驚異の約46 万キロと、GPz 乗りなら知らぬ者はいない有名人だ