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なるほど!世界のバイク人「ビッグバイクには何歳まで乗るか?」

人生100年と言われはじめて久しいが
実際には何歳までバイクに乗れるのだろうか
70歳のツーリングライダーは珍しくないが
90歳まで乗り続ける準備はできていますか?

※BikeJIN vol.261 2024年11月号参照

イギリスで87歳男性の免許取得がニュースに

この夏、イギリスで86歳の男性がモーターサイクルの運転免許試験に合格した。

イギリスやEUのバイク免許は、125㏄以下で出力が11kW以下のA-1、35kW以下でパワーウエイトレシオが0.2kW/㎏以下のA-2、排気量や出力などに制限のないAの3段階に分かれていて、ステップアップするには一定の経験年数とテストが必要だ。

国内で最高齢のバイク免許合格者になったのは、若いころからカーレースやセーリングに親しんできたトニー・ノートンだ。5年前に長年連れ添った奥さんを亡くした後、彼は「充実した生活」を失わないためにバイクに乗ることにした。そして、仮免許の「Lプレート」をつけて125㏄のヤマハに2年ほど乗った後、2022年にA-1ライセンスをとり、それから19か月後にみごとA-2のテストにパスしたのである。バイクライディングへの挑戦を始めてから4年後に目標を達成したトニーのドリームバイクは、ホンダ・レブル500だそうだ。

このエピソードは、歳をとってもモーターサイクリングにはチャレンジの価値があり、何かを始めるのに遅すぎることはないことを語っている。だが読者の多くにとっては、果たして自分は何歳までバイクに乗れるのかということの方が気になるだろう。現在のバイク人読者の平均年齢が50歳プラスだとすると、そういうことを差し迫って考えるのはまだだいぶ先のことかもしれない。しかし、そのときは確実に訪れる。だが、それが60歳なのか、それとも70歳になるころなのかはだれにもわからない。

ひと昔前の人は、60歳を超えると老いが風貌に現れ、70歳となると本当に年寄りっぽく見えたものだった。だが今は60歳などまだ壮年で、70歳でも若々しい人がいっぱいいる。だから、自分がその年齢になったときにどうなるのか、まだバイクに乗れるのかどうかは、アイディアとしても想像しにくい。

それなら、70歳をとうに超えたバイク雑誌業界の長老諸氏はどうかと見ても、彼らはバイクに乗ることの達人すぎて、フツーのライダーの参考にはあまりならないような気がする。つまり、何歳までバイクに乗れるのかは、実際には未知の領域かもしれないのだ。

セオリーとしては次の四つが問題点だ。歳をとると
①視覚認識に対する肉体の反応時間が遅くなる
②身体の柔軟さと体力が失われる
③視力と聴力が弱くなる
④基礎疾患を抱えることがある

だが、肉体的な衰えは、トレーニングやヨガなどのエクササイズで進行を遅らせることができるだろう。視力や聴力は眼鏡や補聴器で矯正できる。心血管系の健康とスタミナを増強するには、ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素性運動をすればよい。

一方、バイクライダーはクルマのドライバーよりも状況把握の能力と判断力が高いので、反応時間にそれほどの遅れはないはずだが、しかしこれを論証するデータは、カードライバーではハザードを発見してからブレーキを踏むまでの時間差の年齢別データがあるものの、バイクライダーに関してはない。

バイクそのものはどうだろう。取り回しが楽で、機動性が良く、ライディングポジションが快適で、手に負えなくない重量のバイクが望ましいのはだれでも知っている。ライディングポジションは、前傾よりもアップライトな方が良いとされているが、シートとステップ間の距離も、膝に問題を抱えがちな高齢ライダーには重要なので、だから適度にリラックスしたパワーを持つアドベンチャーバイクが年寄りには良いという意見もある。

だが、これらは先ほども言ったようにすべてセオリーだ。それよりも、手先と足先を器用に動かせば事足りるクルマと違って、バイクで決定的に重要なのはバランスの感覚だ。これが失われたらバイクリーディングはもはや少しも楽しくなくなる以上に、自分にも第三者にも危険なものになるだろう。

それにしても、これらの考察や、あるいは単に漠然とした想像に役立つような、数値化されたデータがない。つまり、握力が何キロ以下になったらバイクの運転はやめた方が良いなどというような情報は、いまだかつて収集されたことがないのだ。メンタルな健康にしても、後期高齢者の運転免許更新の際に検査されるとはいえ、それまでは肉体的な能力の査定と同様に、あまり論拠のない基準をもとにして、本人が自己判断するしかない。

いっそのこと、避けられない日がいずれ来るこのクライシスのフィールドワークを、バイク雑誌がやったらどうだろう。読者からボランティアを募って、20代、30代、40代、50代、60代、70代のライダーの反応時間や身体能力やメンタルの違いを調べるのだ。そしてそれらをもとに、実際にバイクに乗っている専門家に分析と考察をさせる。そうすれば、自分が年輩者になったらどうなるのか、何歳ぐらいまでバイクに乗り続けられるのか、今よりも少しはたしかなアイディアが得られるだろう。そうすれば、それまでにバイクで何をやりたいのか具体的なイメージを作れるに違いない。長い視野でバイクライフを考えているライダーにとっては、何年後に自分がどうなるかをイメージできたら、その情報は役に立つはずだ。

若いころは、70歳を過ぎたら棺桶に片足を突っ込んだようなものだと思っていた。しかし自分が実際にそういう年齢になってみると、まだまだいけるではないかと気がつくことがある。もっと早く気がついていれば、バイクがもっと楽しくなったかもしれない。

日本には免許の返納と認知症の発症・深刻化の関連を明らかにしたデータがあり、高齢者に返納を促すムードがある。逆に、いかに高齢者が安全に運転を続けられるかが行政施策の国もある(画像はAIによるイメージ)

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