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ハーレー和尚のバイク説法「精霊馬」

BikeJIN2024年9月号 Vol.259掲載

本瀧寺のシュウケンです。暑い日が続きますが、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。今年もお盆の時期が来ました。先祖の霊を自宅に迎えて供養するお盆は、日本の風物詩とも言える夏の行事の一つです。

もともと仏教では、お盆のことを「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言い、お釈迦さまの弟子の一人・目連(もくれん)が、餓鬼道に落ちた母を救うために供養したことが始まりとされています。それが日本古来の風習や地域の文化などが混ざり合って、今の形となったと言われています。地域や宗派などによって多少違いはありますが、多く場合8月13日に迎え火を焚いてご先祖様を迎えます。そして8月16日に送り火であの世へと送ります。さだまさしさんの曲で有名な『精霊流し』も、故人の霊を極楽浄土へと送り出す、長崎と熊本などの一部地域で行われる九州のお盆の行事です。じつはココ大阪にも先祖の霊を供物などと一緒に手作りの舟に乗せて、川に流す精霊流しを行う風習があります。また大文字焼きなどで有名な京都の「五山送り火」も、お盆に迎えた精霊を再び浄土へと送る伝統行事です。

お盆と言えば、茄子やキュウリに割り箸などを刺して作った動物がお供えされているところを見たことはないでしょうか。あれは『精霊馬(しょうろううま)』と言って、先祖の霊があの世と現世を往来するための乗り物なのです。キュウリで作ったものが馬で、ナスで作られたものは精霊牛(しょうりょううし)と呼ばれることもあり、牛にみたてられています。少しでも早く家族に会いたい霊は、足の速い馬に乗って大切な家族のいる家へと帰ってきます。逆にあの世に戻る時は、たくさんの供物を持って牛に乗り、家族との別れを惜しみながらゆっくりと戻るとされています。「牛馬」と言う地域もあるそうですが、意味は同じです。大切な人の元へ早く行きたい、帰りたいと言う気持ちは、生きている人も亡くなった人もなんら変わらないのです。

平安時代あたりに貴族の間で麦藁や瓢(ひさご)を使って、馬や牛を作っていたとされる精霊馬。一般に広く定着したのが江戸時代と言われ、夏に多く収穫される茄子やキュウリを使われるようになったとか

今年の夏も、多くのライダーがツーリングなどバイクでのお出かけを予定されていると思います。景色の綺麗な場所や美味しい食べ物があるお店などの目的地に、少しでも早く到着したい気持ちは分かります。また目的地で思う存分楽しんで、家族たちが待つ家に早く帰りたいと思うことでしょう。しかし、ツーリングにキュウリの精霊馬は必要ありません。確実に目的地に到着する。そして無事に自宅へと帰ってくる。それが一番大事なのです。どうぞ茄子の牛でのんびりと安全に走り、家族や友人など大切な人を安心させてください。

合掌

本瀧寺ではお盆の行事として毎年8月の第4日曜日(今年は8月25日)に大施餓鬼法要が営まれる。大本堂横に設けられる施餓鬼壇で、全国災害犠牲者や戦死戦病死の英霊、檀信徒各家の精霊の回向が営まれる
バイク寺として親しまれる大阪府能勢町にある「妙見宗総本山 本瀧寺」の執事長。40歳の時に大型二輪免許を取得。ショベルに乗るハーレー和尚として、バイク講話など交通安全普及に努める

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