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【北海道を旅し尽くしたライダーに勧める】どこまでも続く丘と牧場の国イングランド

イギリスの中でもとりわけイングランドは、面積にして北海道の約1.6倍あるが
そのすべてが美瑛や富良野、道東と道北のようになだらかな丘陵地帯だ
畑と牧場の合間を縫うように走る道路をひたすら行く旅は
北海道をしゃぶり尽くしたツーリングライダーのネクストステージなのである

モーターウェイ(高速道路)を走っているだけでも、どこまでも広がる緑の丘陵を全身で感じることができる。ガードレールや防音壁がないから、爽快さは格別
丘の上を目指しても、実はほとんどが牧場なので道はないのが玉にキズ。それでも丘の合間を縫って延びる道をひたすら走っていると、旅感がじわじわと充実する

ただただひたすら爽快なイングランドのバイク旅

イギリスの空は広く、高い。とりわけイングランドは果てしなく広く、どこまでも高い。なぜなら、イングランドには山がないし(だからトンネルは鉄道用か坑道しかないらしい)、ロンドンのような大都市部以外には高層ビルはもちろん近代建築もないからだ。

高い生垣と緑のトンネルもところどころで見られるイングランドの風物だ
今回、スマホを失くしたのでルートをメモした紙をタンクに挟んで走った。古き良きやり方のおかげで旅感が倍増した

曇天の日も多いことで知られる地帯だが、晴れときどき曇りのような初夏には、湿度の低い乾いた、そして澄んだ空気が作り出す色濃い青空と、もくもくと発達していく白い雲とのコントラストが美しい。あいにく、今回は曇りがちだったが、これもまたこの土地ならではの空で、広大な牧場のあちこちに雲が落とす影が移ろうのを眺めているだけでも気分がいいのである。

ときおり雨雲を連れてくるけれど、空気が乾いているから雨さえやめば濡れた服もすぐに乾く。

とはいえ、やはりイングランドの醍醐味は丘陵地帯だ。高速道路でも十分に感じられる爽快さだが、一般道だとさらに気分がいい。道路番号の大きなルートほど田舎道になるのは日本と同じで、そんな道を走っていると、やがて小さな集落に入る。たいていは石造りの家並みだが、藁葺き屋根に漆喰の壁の小さな家々もところどころにある。日本人にとっては、どこへ行っても絵画や絵本の世界に入り込んだ気分に浸れる。

石造りの町並みは、その地域で採れる石によって微妙に色合いが異なる
藁葺き屋根に漆喰壁の古い家屋もちらちらと点在している。いったい何年物なのだろう?

バイク乗りにとって小気味いいのは、イングランドのほとんどの道路は適度なワインディングが延々と続くことだ。しかも速度制限は郊外なら50〜60マイル(約80〜96㎞/h)だからストレスがない。たまに大型トラクターや馬車に低速度で先導されることはあるけれど、同じ距離を走るにしても日本よりも短時間で行ける。

イングランドでは珍しい山岳地帯のうち、ここはレイクランドと呼ばれる一帯。険しい山の草原を小さな道が縫うように走っている
日本でも見られそうな渓谷の風景だが、樹木がないところがイングランドらしさだ

とはいえ、ゆっくり景色を楽しみたいときは、速すぎると感じる場面も少なくない。なぜならイングランドには展望台がない。さらに、路肩が狭いからバイクを停められない。停めたところで道路の両脇は生垣か石垣、あるいは古い大木があるから見通しが悪い。だから、素晴らしい景色に遭遇しても走りながら眺めるしかない。この国の人々には景色を眺める習慣がないのか、と疑いたくもなる。

道路の路肩は狭いのでこうした牧場などの入口なら駐車できる
天井川になっている運河の可動橋。かつての重要な交通網だ

しかしそれでも十分なのだ。高く青い空(いやまあ、どんよりしてることも多いが)の下、果てしなく緑の丘を縫うように走り続けているだけで、イングランドの美しさを全身で浴びられる。絶景というものは必ずしもじっくりと眺めなくてもいいのだ。そう思えてくるほど魅惑の光景なのだ。

ちなみに、イングランドの面積は北海道の約1・6倍。それでいてすべてが道東や道北、美瑛の丘のような地形なのだ。イングランド最高峰の標高が978mといえば、そのスケールが伝わるだろうか。日本人の感覚からすれば、イングランドには山がないのである。

山がないイングランドでは珍しい峠(標高454m)にある宿屋カークストンインは、1496年に開業したそうだ。現在は休業中とのこと
カークストン峠に向かう道は、イングランドではなかなか見られない山道でガードレールもない

また、高緯度地帯になるため、イングランド中央部あたりまで北上すれば、空が暗くなるのは夜10時すぎだ。しかも夕焼けが2時間以上も続く。その気になれば夕陽に向かって丘を駆け巡れる。こればかりは日本で体験できない。

ひとしきり走ったら町でティータイムを楽しむもよし(ティーバッグが一般的)、疲れたならB&B(朝食付き簡易宿)に泊まるのもいい。たいてい小さな古いストーンハウスか木造と漆喰の家だから、古き良きイングランド文化を堪能できる。そんな夜は、町のパブでエールを飲むのが最高だ。

町のカフェで一服。紅茶はたいていティーバッグでミルクを入れるのが一般的だ
ハーフティンバーと呼ばれる建築様式。経年によって歪んでいるところが味わい深い
評判よりウマいイギリス飯
イギリス料理は評判が悪いが、国民食であるフィッシュアンドチップス(右)とブリティッシュブレックファスト(左)はウマい。イギリスでは中華やインド料理が一般的だそうだが、せっかくならこの2品くらいは食べておきたい。どこの町でも気軽に食べられる

レンタルバイクを利用すれば、気軽に海外ツーリングできる時代になった。そんな今だからこそ、バイクツーリングを国内だけで楽しんでいるのはもったいない。イギリスは治安もいいし、左側通行だから海外でバイクに乗るのが初めてでも慣れやすい。北海道もいいが、イングランドもいいぞ!

F1やMotoGPで有名なシルバーストンサーキットには地元の中学生らしき集団が遠足に来ていた
ナショナルモーターサイクルミュージアムには850台のバイクを展示(ほとんどが英国旧車)。とてもじゃないが一度の訪問では鑑賞しきれない。バイク黎明期の歴史はイギリスの歴史の一部でもあることがよく分かる。トライアンフ本社工場があるヒンクレーも近くにある
ミュージアムの駐車場にはなぜか孔雀がいて、来場客に向かって羽を広げたりと、サービス精神も旺盛だった

日本とあまり変わらない!? イギリスのツーリングライダーたち

イギリスでも日本製バイクが多数を占めるが(カブやモンキーなどホンダの小排気量車もかなりの人気)、ヨーロッパ車の比率は日本より高く、とりわけ地元のトライアンフはかなり台数が多い。マン島へわたるライダーの中でも、キャンプ組はパニアケースやトップケースのほかに大きなバッグを数個積み上げていたり、テントやマット、サンダルやコッへルなどをくくりつけているのは北海道キャンパーと同じ。洋の東西が変われど、やることは一緒なのだ

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