Honda FLEET MANAGEMENTはこれからのバイクライフを変えるのか
ホンダが国内二輪業界としては初となるコネクテッドサービス「ホンダ フリートマネジメント」を開始した。デリバリー業界や配達業界などで業務運用されているバイクの各種動態管理を可能とするシステムがもたらすものはなにか。ビジネス領域のみならず通勤・通学といった日常的な移動やツーリングを楽しむ我々のバイクライフをも変えるのか?モノづくりの実績の影で動き出したコトづくりの可能性はホンダの将来像の一端をかいま見せるものだった
見えていなかった場所に チャンスはあった
10月1日から開始されたホンダの法人企業向け二輪車用コネクテッドサービス「ホンダ フリートマネジメント」に注目したい。搭載した通信機により車両をインターネットにつなげていくというIoT化は、四輪業界では進んでいるが二輪はまだまだこれから。しかし、その根幹を成すシステムはビジネスユースだけではなく、通勤・通学やツーリングといった用途にも応用できるはずだからだ。
ところで、フリートマネジメントという言葉は物流業界で良く聞く。トラック運送業者による車両や運転手の管理、リスクコントロールやコストダウンといったオペレーションシステムがイメージされる。ホンダ フリートマネジメントは、国内二輪市場における初めてのフリートマネジメントサービスとなるが、今回いろいろとお話を伺った。
相川「バイクを業務利用する事業者の方々は安全運転やコストの意識が高いんです。原付一種の販売台数自体は減少傾向ですが、実はビジネス利用での需要は減っていません。そこに提供する価値があると考えました」
バイクを利用したビジネスと言えば、宅配事業者がジャイロキャノピーなどのビジネスバイクを使ってピザやお寿司を届けたり、スーパーカブでの新聞配達といった業務が代表的だ。そうした事業者がホンダ フリートマネジメントを導入するメリットとしてどんなものがあるのだろうか。
この技術を使うと・・・
配達員の運転を「見える化」することで管理者は適切なデータで指導でき、従業員の安全意識も高めることができる。ビッグデータを活用すれば安全性が高く効率的なルートの提案も可能だ。運行記録や業務日報の自動化もでき大幅な業務効率化・コストダウンに貢献する
「細かいインセンティブの付帯」
デリバリー・配達業界は慢性的な人材不足に悩んでいる。事業所に出社せず自宅から配送、1時間のみの就業、嫌がられる雨の日の配達や安全運転評価が高ければ報奨を渡すなど労働環境のポジティブな改善にもつなげられる
「メンテナンスの効率化による経費削減」
加減速が急だとリヤタイヤの消耗が早いという傾向がある。このデータをAIに機械学習させていくと予測分析ができメンテナンス・マネジメントシステムの確立やタイヤが減りにくい運転支援など経費節減にもつながる
データログでの評価も可能 労働環境の改善も見込める
相川「法人企業様では、配達員がどのように運転しているかが見えるようになります。急加速や急減速といった過度な運転をどこでしたのか、また、アイドリングのまま放置した場所も分かるので、運行管理者がデータを基に助言できるようになります。車両を使った運行記録や業務日報を自動で作成できるのも大きなメリットです」
リアルタイムに車両の位置情報や稼働状況が把握でき、運転特性をレポートする機能も備える。さらには日時、訪問場所、走行ルート・距離などが自動で記録され、ジオフェンス機能により配達や帰着を事前に把握することもできる。まさに「見える化」だ。
一方で、配達員の心情になれば少々窮屈なシステムのように思えるかもしれない。しかし、安全運転をしていた配達員には人事評価制度に活かすなどのポジティブ化も実現できるので、そこは活用次第だろう。
見坊「配達業務における勤務形態の多様化も可能になるので、『時間がある時だけ働く』という働き方ができれば、人手不足の解消にもつながると考えています。事業所や拠点まで通勤するといった負荷も軽減されれば、業務効率化にもつながります」
安全運転の向上を軸に、業務の効率化や労働環境の改善、メンテナンス費用の削減といった効果が期待できるのだ。また、宅配を注文した顧客としても、事業者や配達員の安全運転は信頼や信用を高めることにもつながる。ホンダは、車両というモノを作るだけでなく、その維持、コスト、安全運転までをトータルで提案できるコトづくりをスタートさせたのだ。
一般サービスが実現すると 販売店の業務改善も進む
さて、ホンダ フリートマネジメントのようなコネクテッドサービスが一般ユーザー向けに運用された場合、二輪車販売店ではなにが変わるのだろうか。
山本「一般ユーザー向けのコネクテッドサービスの開始時期はまだ未定です。車両をコネクテッド化する前に、まずはベースとなるお客様と販売店様、ホンダの関係性をスマートフォン等の情報ツールを活用して進化させ、繋がりをより強化したいと考えています」
車両のコネクテッドサービスと言えば、四輪ではレクサストータルケア等が知られている。オーナーと車両、販売店をネットワークで結び、車両情報の共有や販売店での点検案内、トラブル対応などのサービスが提供されている。
山本「我々が届けたい価値は、バイクライフの充実そのものです。例えば、冬の間に弱っているバッテリーの情報を提供する、旅先で転んだ時にスマホを通して各所に電話をするとかコネクテッドサービスならではの安心で快適な機能を考えています」
そうした技術やシステムは、ホンダドリームやホンダコミューターといったホンダ正規取扱店の具体的な業務にどういうメリットがあるのか。
山本「例えば、お客様が到着する前に店舗に連絡が来てお出迎えができたり、メンテナンスのご提案を事前にまとめられたりと、接客レベルや業務効率を向上できます。また、走行距離に応じたポイントをお客様に提供してお店で使っていただくなど、来店促進や購買促進につなげることもできるでしょう。お客様とのコミュニケーションを深めるツールとして活用することで、結果的にお互いの関係性をより良いものにすることができると考えています」
相川「お店からお客様に連絡する時間が取れないこともあります。コネクテッド化して細かいデータが見えれば、それをもとに点検や整備等のご提案に活用できます。お客様との絆も深まるのではと思います」
このように、ホンダ フリートマネジメントのコネクテッド技術は、二輪車販売店の課題をも改善する可能性を秘めている。
ところで、ホンダの正規取扱店と言えば、いま「ホンダGOバイクレンタル」が好調だ。会員の約3割が20〜30代の若年層、さらに20代の車両を持っていない割合が過半数を超えるという。次代を担う見込み顧客の利用実態を知り、課題の改善はもちろんのこと、車両の販売や安全運転の啓発につなげていくことも期待できそうだ。
こんなことができるようになるかも
1、最適なタイミングでメンテナンスサービスが受けられる
2、事故時、自動で各所へ連絡
3、走行距離に応じたポイント付与
4、バイクライフ(ライフログ)の記録・共有
愛車がコネクテッドされたら? なんとなくやっていたオイル交換や点検も一人ひとりの乗り方に合わせた提案が届く。「データログを見るとサーキット走行をこれぐらいしていましたから、基準よりもこれくらい早めに交換したほうがいいですね。オイルはこうした品質のものが良いですよ」などと具体的なアドバイスをもらえるだろう。さらには欧州の自動緊急通報システム(eCall)のような事故対応も可能となる
オーナーとしてのメリットと 二輪市場を適正化する力
では、オーナーの立場からすると、コネクテッド技術はバイクライフをどう変えるのだろうか。
山本「大きくは3つあります。スマホ上でメンテナンスの予約ができるといった利便性。2つ目は走行距離に応じたポイント付与などのお得感。3つ目は、お客様のニーズである『バイクライフそのものを記録したい、共有したい』という思いを実現する機能です。ルートや写真、メンバー等ですね」
さて、コネクテッド技術が実現していくものはまだある。車両のログにより履歴が保証されたバイクとしての適性な中古車の流通。ホンダドリームには優良認定中古車と認定中古車があり異なる保証が設けられているが、この基準も含めて、より信頼できる車両として購入時の安心感が増すだろう。
また、転倒等の事故原因についてもより細かな分析が可能になり事故防止に役立てることもできるだろう。さらに、データの取り方によってはライディングスクールでの技能向上にも役立つはずだ。一方で、個人情報の取得という点では注意が必要なので、この点ではオーナーの同意が求められる。
最後に大局観を。ホンダ フリートマネジメントはCASE(Connected・Autonomous・hared&Services・Electric)という現象から見れば始まりに過ぎないが、将来的には二輪のモノづくり・コトづくりをトータルに担う「プラットフォーマーとしてのホンダ」像へとつながる可能性を秘めている。今後も目が離せそうにない。
今回お話を聞いた方々
「労働環境の改善につながり,
人手不足の解消にもつながると考えます」
部洋用品部 部洋用品 販売企画課
見坊東彦さん
四輪正規ディーラーであるホンダカーズのサービス職を経て入社。部品・用品の商品企画に携わったのち現在はホンダ フリートマネジメントを専属担当する
「データが見えれば点検や整備のご提案に活用できます」
部洋用品部 部洋用品業務課 相川秀樹さん
ホンダドリーム名古屋中央の店長を務めるなど販売現場を歴任。その経験を活かしてフリートマネージメントの企画に携わる
「届けたい価値はバイクライフの充実そのものです」
経営企画室 山本祐司さん
本田技研での四輪研究開発等を経て、近年はフリートマネジメントや個人向けコネクテッドなど二輪車の先進的なサービスの企画に立ち上げから携わっている