なぜコミュニケーションプラザ?
考えてみると、ちょっと不思議な名前だ。
静岡県磐田市。ヤマハ発動機本社敷地内にあるヤマハ・コミュニケーションプラザは、ピストンを模した円筒形のデザインが目を引く。中には、多数のバイクを中心として、同社の製品が幅広く展示されている。
○○博物館とか××ミュージアム、といった名称なら、まさに名は体を表すといった感じで分かりやすい。だが、「コミュニケーションプラザ」である。誰が、何を、どうコミュニケーションしようとしているのだろうか?
「コミュニケーションプラザの設立は98年です。ヤマハ発動機創業40周年記念事業の一環でした。 そして疑問に思われている名称ですが……。ちょっと説明が必要かもしれませんね」
そう話してくれたのは、コミュニケーションプラザの取りまとめ役を務めている松尾現人さんだ。
松尾さんによると、コミュニケーションプラザはもともと主には社内向けの施設として作られたものだった。
当時作られたパンフレットの冒頭にはこう書かれている。
「ヤマハ発動機グループの社員が、当社の企業理念や長期ビジョン、そして過去・現在・未来を語り合う『場』として、その内容と活動の充実を図るために、全員が積極的に参画し、成長・発展させていくコミュニケーション施設」
松尾さんが説明してくれた。
「ここには、ヤマハの第1号であるYA‐1を始め、過去に作った製品が展示してあります。そしてもちろん、現在の製品もある。未来につながる技術のタネを企画展示することもあります。 私たちヤマハは、原則的にモノ造りの会社です。自分たちが造ったモノを実際に見ることができるというのは、想像以上に大切なことなんです」
一般的にモノ造りの現場は、効率のよい開発のために、専門化、細分化、分業化、そして電子化がどんどん進んでいる。それだけに、自分が造っているモノがいったい何なのか実感を持って理解することが難しくなりつつあるのだ。
「コミュニケーションプラザでは、実際のモノを眺めながら、社員たちが語り合うことができるんですよ。図面だけでは分からないことが分かったり、思わぬアイデアが浮かんできたりと、メリットはたくさんあるんです」
コミュニケーションプラザに展示されているのはバイクだけではない。船外機を始めとした、ヤマハの多彩な製品が一堂に会する。ほとんどの製品が「動くモノ」だ。
だからこそ、実体があることが重要なのだと松尾さんは言う。
「社名からして『発動機』ですからね(笑)。時代は変わっても、モノを動かす力を生み出す会社であることには変わりないんです」
コミュニケーションプラザのバックヤードでは、過去に造られたバイクのレストアが行われている。量産車からレーサーまで、ほとんどすべてが実際に走る状態で動態保存されている。
「動かなくちゃ意味がありませんからね」と松尾さん。中には2ストエンジンを搭載したレーサーのように、将来的に復活する見込みが薄いものもある。それでもしっかり走れるコンディションが維持されているのだ。
「古の技術になったのは確かですが、2ストマシンの構造や動作を、知識として、実体験として覚えてもらうことには、重要な意味があると考えています」と語るのは、コミュニケーションプラザの企画運営に携わる畑﨑隆行さんだ。
レストアを手がけたくてコミュニケーションプラザの仕事に手を挙げたと言う畑﨑さん。レストア業務には、ただ「昔の製品をよいコンディションで保存する」こと以上の意義を感じている。