とっさの時の判断や操作に遅れが出るなら
「とっさの事態」に陥らないようにすればいい
視野を広げて、先読みの精度を高めよう
鈍くなった反応をいかにカバーするか
残念なことに、年を取れば誰だって衰える。箇所や程度は人それぞれ異なるが、加齢によって身体能力や集中力は確実に低下し、反射神経も鈍る。これは当然のことであり、避けられないことでもある。「どうしようもない」のだ。
衰えた身体に何が起こるのかをライディングに当てはめて簡単に言えば、1秒間のうちにできることが少なくなっている。
反射神経の鈍化は、認知と判断の遅れとなって表れる。身体能力の低下は、操作の素早さやていねいさ、繊細さのレベルを下げる。
そしてバイクの場合、それらライダーのスキルが挙動となってダイレクトに反映されるうえに、わずかなミスが大きなリスクに直結しているのだ。
まったく楽しくない話だが、衰えによっていつの間にか自分の身に起こっているレベルの低下を率直に認めることが、永く乗り続けるためのスタートラインだ。「重要なのは、予測力を身に付けること」
「いざという時、とっさに対応できるのは、反射神経が伴っているからこそ。その反射神経自体が衰えてるんだから、『いざ』が起きないようにしなくちゃいけない。
そのためには、起こりそうな事態をできる限り想定しておく――つまり予測力が不可欠です。
前のクルマが突然止まるかもしれない。急にUターンするかもしれない。自転車がいきなり進路変更するかもしれない……。できるだけ多くの『こうなるかもしれない』という予測を、頭に浮かべておくんです」
交通教本や教習所でさんざん聞かされたはずの、「かもしれない運転」の実践である。
予測するだけでは意味がない。予測を余裕につなげるために、とにかく速度を落とす。その「具体的措置」こそが安全を呼び寄せる。「これがまた、なかなかできないようなんだよね。見栄があるのか、『バイクはスピードを出す乗り物』という固定観念に囚われているのか……」
イラストの交差点はもちろん、峠道、高速道路など、ライダーが予測力をフル回転させるべきシチュエーションはかなり多い
「ライディング中の予測はパズルのような知的ゲーム。道路上のヒントをひとつでも多く拾い上げて、安全を作り上げていくんです」と純さん。クルマや自転車など他車の動きはもちろん、「追い越すトラックが突然パンクしないか」といった細部も決して見逃せない
対向車からも先の情報が手に入る
晴れているのに対向車がワイパーを使ってる!? そんな時は「この先、路面が濡れている可能性アリ!」と脳内注意信号を灯しておく。あらゆる部分に気配りを
バイク乗りたるもの、不穏な空気にも敏感であるべし。「君子危うきに近寄らず」はすべてのライダーに当てはまる諺。何かあった時にダメージを受けるのは交通弱者であるバイクなのだから、イヤな雰囲気をできるだけ素早く察知し、できるだけ迅速にそこから離れるのが吉。イキがって張り合ったところで「百害あって一利なし」。事なかれ主義こそが最良の選択だ。
予測力を生かすために“回避のための余裕”を作る
いくら予測していち早く状況を認知したところで、判断・操作をする時間的な余裕がなければ意味がない。加齢による衰えは間違いなく判断・操作を遅らせるのだから、そのぶんスピードを落とし、回避するだけのゆとりを作っておく。
バイクは思いのほか早く進んでおり、アッと思った時には手遅れということになりかねない。そもそも「アッ」となった瞬間に身体が硬直し、いつもどおりの操作すらできなくなる。「スピードを控えめに」は耳慣れた標語だが、年を取るほど真摯に耳を傾けたい。
速度を5㎞/h落とす
時速40㎞から時速35㎞へ、速度をわずか5㎞落とすだけで生まれる約1.4mの余裕。生死を分けるには十分な差だ。高速道路では、例えば時速80㎞なら80m、100㎞なら100m車間を空ける
「見えなかったから予測できなかった」と言い訳できるのは、幸運にも生き残れた時だけ。ちょっとした位置取りで視界が得られるのだから、怠るべからず!