ただいま発売中のBikeJIN10月号の別冊付録「ADVENTURE BIKE BOOK」で、Honda X-ADVを購入した理由をあれこれ書きましたが、よーく考えると決め手になったのはDCT=デュアルクラッチ・トランスミッションを採用していたからだと思います。
みなさんご存知だと思いますが、現在のところ、モーターサイクルではホンダ独自のテクノロジーであるDCTは、簡単に言えば有段ミッションのオートマチック・トランスミッションを実現したもの。クルマのATのようにクラッチ操作不要でシフトアップとダウンを自動的行ってくれるATモードと、自分でシフトボタン(一部のモデルには、オプションでシフトペダルの用意もあります)を使ってギヤチェンジを行うことができるMT(マニュアル・トランスミッション)モードの両方を備えたトランスミッションです。
バイクのオートマチックというと、スクーターのそれを考えてしまいますが、DCTとスクーターのATの決定的な差はDCTにはギヤがあること(=有段であること)。スクーターは基本的に無段変速ですから1速から2速、3速にギヤが変化すような明確な感覚の差はなく、速度が上がるにつれて自動的に変速(?)していきます。そして、減速する際もミッション付きの普通のバイクのように、ギヤが落ちていくのと同時にエンジンブレーキが効く感じもありません。
ところがDCTは何度も言うように有段ミッションですから、速度が上がるにつれてギヤは自動的に1速→2速→3速→4速(現在は6速が基本)とシフトアップしていきます。その際、シフトアップしている感覚はちゃんとライダーに伝わってきます。ちなみに2018年型のゴールドウイングは7速のDCTを装備しています。
そして減速をするときは、こちらも速度の低下に合わせてギヤがたとえば4速→3速→2速→1速と、自動的にシフトダウしてくれます。ここで特筆したいのが、シフトアップもそうですが、シフトダウンの際にガクンというシフトショックが一切ないことです。
(DCTのムービー:http://www.honda-dct.com/visualizer/)
BikeJIN10月号の別冊付録に掲載した、X-ADV購入報告ページ。決め手はDCTだったんだと思っています。
DCTはこの図のように、1,3,5速用と2,4,6速用(新型ゴールドウイングは7速+後退)のふたつのクラッチを備えています。
誰でもエキスパートライダー並みのシフト操作ができる。よーく考えると、これは夢のような技術です!
ボクがこのDCTのことを初めて聞いたとき、ナイショで教えてくれたエンジニアの方は「タンデムが劇的に変わるミッションだよ」、そう教えてくれました。
後ろにタンデムライダーを乗せているとき、もっとも気を遣うのはシフトチェンジのショックで後ろのライダーの身体が動いて、タンデムライダーのヘルメットが自分のヘルメットに当たること。コツンときた瞬間、あー、失敗しちゃったと深く反省しちゃうもんです。
ところがDCTの場合、オートマチックでも、自分でボタン操作を行ってシフトダウンしても、バイクが勝手にエンジンの回転数を合わせてシフトショックが起こらないように操作してくれるので、ヘルメットのコツンがほぼ起きません。タンデムライダーにしても、予期せぬ前のめりの動きがなくなりますから、構えることなく、いつでもとても安心して乗っていられるわけです。
右側スイッチボックスの前側にニュートラル(N)とD(ドライブ)、そしてS(スポーツ)のモード切替えボタンが。後ろ側にはA(オートマチック)とM(マニュアル)を切り替えるボタンを装備
左側の前部には、任意でシフトダウンが可能なマイナス(-)ボタン、後ろ側にシフトアップ用のプラス(+)ボタンがある
「タンデムの世界が激変する」、初めてDCTの話を聞いたとき、ホンダのエンジニアはそう言いました。そして、それは事実でした!
もちろん、タンデムライディングのとき以外にもDCTのメリットはたくさんありますよ!
DCTの象徴的な特長として、タンデムライディングのときのメリットを書いてみましたが、もちろん、ひとりでライディングしているときも、というか、ひとりでライディングしているときだからこそ、DCTのメリットを享受できることがたくさんあります。
DCTが自動的に変速をしてくれるATモード(モデルによって異なりますが、基本的にはごく普通の変速タイミングのSTDモード=Dモードと、より低回転で変速するスポーツモード=Sモードを備えています)で走っているとします。速度に応じて、バイクが勝手に変速してくれるので、ライダーはクラッチを握って→シフトペダルを操作してという行為から自由になります。
高速道路に入って加速して流れに乗るときも、あなたのすることはスロットルをひねるだけ、速度に合わせて、DCTはギヤをどんどん自動的にアップしてくれます。
もし、前方で渋滞が始まっていたら、あなたはブレーキレバーを握る(あるいはペダルを踏む)だけ。バイクが勝手に1速までシフトダウンしてくれます。
こう書くと、なんだ、別に大したことないじゃんと思う方もいるかもしれませんが、これがどれほどライダーの負担を減らすか、そしてそれがライディングの楽しさを深めるか、これはDCTの恩恵を味わったことがあるライダーにしか分からないことかもしれませんね。
DCTのメリットはまだまだたくさんありますが、ちょっと長くなってきたので、今回はこれくらいで。
付け加えておけば、ツーリングの帰り、高速道路が大渋滞で、クラッチを握る左手がめちゃくちゃ辛くなったことがありますよね。DCTなら、あの辛さを味わうことは一切ありません(笑)。
ツーリングの帰り途、こんな渋滞に巻き込まれたら……。でも、DCTなら渋滞も苦になりません